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EnvyMe!


 おれの恋人は男に愛されるのがとても巧い。見た目が愛らしいのは勿論のこと、どこかおっとりしているところや、常に微笑みを絶やさないところ、本人に他意はないであろうさりげないボディータッチの多さ、男という単純な生き物を「その気」にさせることにかけては右に並ぶものはなかなかいないはずだ。リーグスタッフだから必然的に仕事中には男と関わることが多く、おれは「その気」になった男を見るたびに言いようのないもやもやとした感覚に襲われる。
「やだあ、なにいってるんですかあ」
 そんなに面白いわけでもないジョークを飛ばしたスタッフの肩をぽんと叩き、彼女は本当に楽しそうに笑った。気を良くした男はジョークを続ける。「やだあ」同じようにけらけら笑って、大きなリアクション。またぽんと肩を叩く。「この間も同じこと言ってましたよお」「そうだっけ、あはは」何気ない会話を覚えてもらっていることに男は喜ぶ。巧い。本当に巧いと思う。ところで気づいていますか、その男と密かに交際している女子スタッフが向こう側から君を睨みつけていること。
「ふふ、おもしろいですね、ほんと」
 ちらり、おれを盗み見る横顔。おもしろいのはあの女の反応ですか、それともイラついているおれの表情ですか。たぶん、そのどちらもですよね、君はよく分かっているから。
「なんだかネズさんに呼ばれてるみたいなのでわたしは行きます、ふふ」
「またね」
「はあい」
 わざとサイズオーバーを選んだジャージの袖から指先だけちょこんと出して男に挨拶。あざとい、を画像検索したら出てきそうな姿だ。そして踊るような足取りでこっちに近寄ってくる。なにが楽しいのか満面の笑み。
「ネズさん妬いてるう」
「……別に」
「そうなの? 拗ねてる顔可愛いよ?」
 大袈裟な上目遣いがくらくらするほど可愛くて、思わず素直に「やたらと媚を売るのはやめてください」と呟いてしまった。
「おれ以外に触れてほしくない、です」
 本気の抗議なのに恋人はいかにも嬉しそうににたにた笑う。「んふふ」ご満悦の微笑み。愛され上手の笑み。たぶんこいつは性格が悪い、歪んでいる、それなのに可愛いのでやっぱり許してしまう。
「じゃあネズくんはみんなの倍触るね」
 そっと指先と指先が触れて、初めてでもないのに顔が熱くなる。柔らかい手。どきどきする。触れられただけでこんなに舞い上がるおれも他の男と同じでいやになるほど単純だ。
 胸の前で両手の指が絡まり合う。脇に挟んでいたバインダーが滑り落ちた。
「他の人にはこんなことしないよ」
 ぎゅっと握りしめる。どきどきが加速して、言葉に詰まってしまった。なんと言ったものか考えていたら、ぐっと顔が近づき、鼻先にキスをされた。
「ネズくんは特別」
 どこまでも巧い、狡い女だ。そんなこと言われて嬉しくないはずがない。君が好きです、おれを特別にしてくれる君が大好きです。おれを「その気」にさせてしまう君が、世界でいちばん好きなのです。

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