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昨日はあんなに晴れていたのに


 それは突然、当たり前のようにやってきた。病院には行かないから心印的なものか器質的なものかは分からない。まるで春の訪いのように、当然そうあるものとして、おれの世界はモノクロームになった。比喩でなく。もともと青白かった自分の身体をみてもぴんとこないが、瞳の色が、ユニフォームの刺繍が、健康的に灼けたあいつの肌色が、なにもかもが、単調なグレースケールになっていた。それなのに、どうして。白黒のあいつの逞しい腕に絡みつく細腕は桜のように柔らかい色味、瞳はラムネ瓶から飛び出てきたように潤んだ爽やかな色彩、小さい唇は瑞々しく艶っぽい色差し。どうして、彼女だけ。「オレたち結婚するから」灰色の唇が聞き慣れない台詞を吐いた。ぽうっと彼女の頬が赤くなり、モノトーンの中それはいやに鮮やかでおれの目を奪う。そうですか、おめでとうございます。贈る言葉はひとつなのに、どうしても口に出せない。こいつらが交際していることは知っていた、そのうちいつか、近い将来こういう日が来ることも分かっていた、はずだ。それなのに、おれは。どんな絵画より、どんな植物より、どんなものよりも彼女がカラフルだと知ってしまった。いまさら、気づいてしまった。「そうですか」思いついていた言葉の前半だけ漸く伝えて、ビビッドな彼女の姿を振り切るように、逃げるように走って帰った。帰宅してからずっと使っていなかったサングラスを探した。春の訪いには誰も逆らえない、それならば自分を変えてしまえばいい。全てを赤茶けた世界にしてしまえば、彼女のことなんて忘れられる。色のない部屋のでひとり、彼女の唇を思い出して苦しくなった。

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