あいつがいない春が来て、夏が終わり、秋が過ぎて、冬がまた始まった。日が暮れるのがどんどん早くなり、もともと明るくない街はさらに陰鬱さを増してゆく。瞬きをする駅のネオンライトは今年いっぱい保つだろうか。 「アニキ、最近はちょっと明るくなったね」 優しい妹が電話でそう言った。 「はは、いつまでも泣いていられませんよ」 嘘つき。あいつが死んだときに泣かなかったくせに。花冷えのなかにあいつの死体を見つけたときも表情を変えなかったくせに。通夜のときも葬式のときも、一言も、なにも言えなかったくせに。どろりと腐った本音を隠しながら、一周忌が近いことを妹と話した。もういまさら、言い淀むこともなかった。墓参りに一緒に行くことを約束し、通話を終える。また嘘をついた。 立ち止まって、なんとなく上を見る。一匹の羽虫が誘蛾灯にふらふらと飛んでいき、火傷してそのまま落っこちてきた。冬を越せない弱虫が自殺したのだろう。ああ、これは、おれだ。あいつがいない冬に耐えられず、いまから自死するおれそのものだ。 おれがいない春が来て、夏になり、秋が終わり――また冬が始まる。 - - - - - - - |