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盗人讃歌



 蛞蝓のようにのたりとベッドから這い降りる。ネズが張り切ってくれたお陰でまったく腰砕けになってしまった。股の間を伝う精液に気持ち悪さを感じながらキッチンに向かう。最悪だ。ピルは飲んでいるけれどゴムのひとつくらいつけてくれてもいいのに。ひとつ、じゃ足りないか。何度したっけ……三度くらい? 何度も好きだ愛してると言われてくたくたになってしまった。
 裸のまま屈んで冷蔵庫を開けた。未開封のミネラルウォーターを手に取る。黒ペンの丸文字で〈だいすき〉と書かれていた。鼻で笑って蓋を開ける。喉に流し込むと火照ってた身体が急速に冷めていった。冷蔵庫のすぐ側の紙袋には煙草のカートンが二箱。ついでにそっちも開封する。さっきのとは違う文字で〈一生好きです〉〈愛してる〉と馬鹿みたいに書かれていた。笑いが止まらない。「ファンから貰ったものなんて怖くて口つけられねぇですから」とはネズの言葉だ。つまり、こんなに差し入れくれたってどうせ消費するのはわたしなのだ。煙草代がだいぶ浮いたな、などと思いつつ換気扇を回す。ごうごうと喧しい音が鳴って、向こうでネズが身体を起こした気配がした。
「キッチンですか?」
「そうだよ」
 腰をさすり、煙草の先を見せる。仄かな灯りで顔さえ見えないけれどわたしがいることは分かるだろう。心配性のネズはわたしがひとりでどこかに行くのを嫌がる。ベッドの上からでさえ、だ。
「シャワー浴びるね」
「おれも」
「ひとりで行けるんだけど」
「おれがそうしたいだけです」
 大好き、一生好きです、愛してる。たくさんの愛をその猫背に受けながら、ネズの愛はわたしにしか向かない。そういえば最後にネズに愛してるって言ったのはいつだったかな。ふうっと白い煙を吐いて考えて、思い出せなかったのですぐやめた。
「ネズってほんとわたしのこと好きだよね」
 悪いですか、と少し拗ねたように返事する彼が可愛かったのでご褒美にキスをしてあげた。愛してるは言わないけど、愛してないとこんなことはしない。
 キスに興奮したのか、ネズは身を乗り出して舌を絡ませてきた。からん、とミネラルウォーターのペットボトルが床に落ちる。〈だいすき〉あっそ、虚しい愛情だね。四度目の交わりを見せつけられるそれは月明かりに照らされて居心地悪そうに寝転がっていた。

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