「カブさ〜ん」 「えっ、あっ、ええっ!?」 バン!とドアの開く音。反射的に振り返るがシャンプーを泡立てている最中だったので目が開けられない。指先を止めてタオルがあるだろう場所に手を伸ばす。 「な、なっ、な、」 「お背中流しに来ました〜」 年甲斐もなく大慌てしてしまう。ボディタオルで腰回りを隠して「呼んでない」と恐らく彼女がいる方向に文句を言った。 背後で小さい身体が動く気配がする。「シャンプー流してあげますね〜」がちゃりとシャワーヘッドが取り外される音がして、熱めの湯が降り注いだ。マッサージされるように頭皮が揉み解されて、強張っていた身体がリラックスしてゆく。「わたしマッサージ得意なんですよ〜」気の抜けた喋り方にも脱力する。 「きもちいですか?」 「ん、」 柔らかい指先が頭から首に滑り、それから肩甲骨の辺り、腰に動く。……なんだこのシチュエーションは。「なんかソープみたいですね〜」「……言うんじゃない」「ソープ行ったことあります〜?」「ないよ」指先が止まる。瞼に溜まった水を振り払って前髪をかきあげた。もういいから、と振り向くと彼女は前も隠さず生まれたままの姿でぼくに密着していた。 「なっ」 「わ〜カブさんすごい腹筋」 蛇のような白い指がそろりそろりと腹部を侵食する。筋をつうっと撫で、そのまま鼠蹊部をくすぐるように這った。 ぺたりと彼女の胸元が背中にくっつく。腰掛けが二人分の体重でぎし、と鳴る。意識せずとも背中に預けられる柔らかさに苛まれ、じわ、と下腹部が熱くなった。 生温い舌がうなじを這う感覚があった。ぼくは逃げるように身を捩るけれど、抱きつく腕は意外と力が強くて逃れられない。 「こら」 大人の余裕なんて既に吹っ飛んでいる。いまはただ、突起した前掛けに気付かれないよう祈るだけだ。 肩に彼女の小さい頭がのしかかる。「あ」嬉しそうな声。「カブさん、勃起してる」ふうっと耳に熱い息が吹きかかった。顔が熱くなる。呆気なくバレてしまったことにも、こんな細やかな触れ合いで興奮してしまったことにも。 「っう、あ」 音を立てて耳を舐めしゃぶる彼女に抵抗できない。情けなく声を上げて、ただされるがまま。処女のように身体を強張らせ肩をびくびくと震わせる。 小さい手がぼくのタオルを取り払った。「気持ちよくなりましょうね〜」囁かれる言葉は間延びしているのに、やたらと淫靡だ。 後ろから回された両手がゆっくりと性器を包む。右手で根元を擦り、左手で亀頭を撫でるように愛撫し始める。ボディーソープと先走りで十分に濡れたそれは、とても敏感に反応した。目の前のタイルに額をぶつけ、できるだけ変な声を出さないように耐える。そんな抵抗を見透かしてか、彼女は指先で的確に性感帯を弄った。教えたはずもないのに。先端を執拗に指先で責め、そのたびに僕が小さく声を漏らすと満足そうに「カブさん可愛い」といった。 性行も自慰も、久しく行っていない。そのためかずっと動悸が激しく、油断するとすぐにでも射精しそうだった。目を閉じて懸命に気を逸らそうとする。できれば萎えてほしい。こんな、こんな情けない姿を彼女に見られるのは堪え難い。 「いいんですよぉ、出しちゃって」 また見透かしたように彼女は囁く。 「わたしの手で気持ちよくなっちゃっていいんですよぉ」 「っく、あ、やめ、やめなさ、っ」 背筋が震える。かぷ、と耳を噛まれた。「っあ、っ!」どくり、小さい手のなかに白濁した体液が弾ける。 「いっぱい出ましたね」 甘やかな声がじんじんと響く。他愛なく射精してしまった嫌悪感に頭が痛くなった。それなのに、 「ベッドで待ってます」 と耳元で呟かれた悪魔の言葉に、ぼくはきっと逆らえない。 - - - - - - - |