×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




夜の子どもたち



「好き、いちばん好き、大好き」
 一昨日クレーンゲームで取ってやったワンパチの小さいぬいぐるみを大切そうに抱きしめ彼女はおれにもたれかかった。
「ネズしかいらない、ネズだけいてくれたらいい」
 数百円のものをまるで世界でいちばんの宝石みたいに抱きしめて、自分に言い聞かせるようにずっとおれへの愛の言葉を囁いている。
「だからネズもあたしがいちばんだよね、そうだよね、あたししかいないよね」
「そうですよ、お前しかいないんです」
 可哀想なくらい震えている声につられ、求められている返事を口にしてしまった。
「あたし以外いらない?」
 ゆっくりと顔を上げて潤んだ瞳でじいっとおれを見る。この目はとても苦手だ。思った通りにおれが答えないとたちまち迷子の子供みたいに泣き出してしまう。そしてポケットに忍ばせたピンク色の剃刀でガラスのテーブルを血まみれにしてしまうのだ。号泣する用意ができている彼女はまだじいっとおれを見つめている。
「ねえ、いらない? いらないよね?」
 お前だけですよと答えて頭を撫でてやれば彼女は満足してまた嬉しそうにはにかむんだろう。大人だったら意を汲んでそれくらいのリップサービスはしてやるべきだ。ところがおれときたら「さっき言ったでしょう」と斜め上の言葉を返して煙草に火をつける。さっき彼女にもらった煙草。
「なんで、ねえ、なんで、ネズもあたしだけ好きだよね?」
「あんまりめんどくせぇこと言わないでくれます?」
 あっという間に大きな瞳からたくさんの涙が溢れ出す。しゃくり上げながら数百円の宝物をおれに投げつけ「好きって言ってよ」と大声を上げた。
「他の人の迷惑ですよ」
 他人の目なんか気にせず大泣きする彼女と、さも面倒くさそうにそれを嗜めるおれ。常識を知っている大人と、そんなもの気にしない子供の中間にいるみたいな、どうしようもないおれたち。
「あたしだけ見てくれないと嫌だ。あたしのこと好きじゃないネズなんて大嫌い」
 ああ、こんな瞬間はたまらなく大好きだ。おれと彼女にしか築けない、めちゃくちゃな瞬間。
 泣き喚いて震える肩を抱いて耳元で「おれのことが大好きなお前が好きです」と囁いてあげる。そう、おれのためにめちゃくちゃになる彼女がとても愛しいと思う。勝手に嫉妬して勝手に悲しくなって勝手に怒り出す、そんな彼女が。おれを愛しておれのためにぐちゃぐちゃになる女をどうして嫌いになれるだろうか。
「お前はおれだけのものですよ」
 例え、おれは彼女だけのものでないとしても。

- - - - - - -