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特別な日



 明後日は彼女の二十と数回目の誕生日で、彼女自身がそれに関して頓着していないにしろ、おれはなにを贈ったものかと考えあぐねていた。
 曰く、彼女にとって年齢とは毎年はじめの日にひとつ取るもので、本当に生まれた歴と月日以外は他の一日と変わらないものだという。しかしだからといって友人やおれの誕生日には毎年きちんとプレゼントをくれる。それはきちんとその日その年に見合った正解のもので、だからこそおれは毎年彼女へのプレゼントに苦心惨憺してしまうのだった。
「なにが欲しいですか」
 とストレートに訊いたこともある。
「お金」
 と屈託のない笑顔で返ってきたので、その年は不躾にも現金を贈った。彼女はとても喜んで、薄紫色の細身のワンピースを買い、残りのお金でおれのためにタイピンを買ってきた。複雑な気持ちになった。
「現金以外で、なにが欲しいですか」
 翌年は用心してそう訊いた。
「時間」
 とまた迷いなく返ってきた。おれは頭を抱えた。そういう概念的なことをいわれると「贈る」という行為ができないので困ってしまう。悩んだ挙句、おれはその概念を無視して前から行きたいと言っていた海に連れて行った。季節外れの海はプライベートビーチみたいで、彼女が海鼠を踏んづけたと大騒ぎしてもおれ以外に笑う者はいなかった。
「要するに、オマエさえいればそれでいいんだよ」
 プレイボーイの友人にはそういわれた。多分、それが正解なのだと思う。分かっていることを改めていわれると、癪だった。
 誕生日が明日になってしまう頃、いままでに記念日などで贈ったものをリストアップしてみた。花束、宝石、歌、およそ思いつくすべてのものは贈っているようだった。――歌を贈ってしまったのは、若さゆえの過ちだとしても。
 隣で寝息を立てている彼女の柔らかい頬を一度撫ぜ、行き詰まったのでそのまま寝ることにした。彼女の夢を見た。
「なにか、したいことはありませんか」
 朝一、観念して今年も訊いた。今度はなにを即答されるだろうか。
「二度寝」
 ごろん、と寝返りを打つ。
 参った。とうとうプレゼントできるものですらなくなってしまった。
 けれどここで起こして問いただすとリクエストされたものが消えてなくなってしまうので、おれももう一度シーツの海に潜った。彼女の背中を抱きしめて「誕生日おめでとう」と囁く。寝息の返事が静かに朝に溶けていった。

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