そよ風が吹いた。まとめていない髪が風に暴れて背中を叩く。それに紛れて妹が「あたしもう行くけん」と腰を上げた。「あとはふたりで」おれは軽く頷いた。お前は言葉もなく佇んでいる。 愛する者が死んだときには、自殺しなきゃなりません。 愛する者が死んだときには、それより他に、方法がない。 それでもながらうこととなったら、奉仕の気持ちになることなんです。 おれは前のめりになって物言わぬ石に変わってしまったお前を優しく抱きしめる。生きていたときよりも細く、冷たいそれを思いきり抱けば腕が余り、行き場をなくしてただ爪が食い込むほどに掌を握りしめた。 おれは自殺もできず奉仕の気持ちになることもできず、ただ日々悔いて過ごすだけ。格別のこともできない。おかしいでしょう、愚かでしょう。 来週の日曜、お前とデートする約束さえしている気がしているのです。日向をゆるゆる歩み、知り合いに会えば照れ笑いして、眩しくなったなら木陰に入り、木漏れ日が照らすお前の横顔なんかを眺める。 お前なしでどうやって生きればいいのか、まるで分かりません。喜びすぎず、悲しみすぎず、テンポ正しく生きられるでしょうか。最後に握手をしたあの頼りない手を思い出して、また掌を握りしめた。 - - - - - - - |