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わたしへ



 母から久しぶりにメッセージが送られてきた。
「十年以上前のタイムカプセルが出てきたよ」
 添付されていた画像は当時のわたしができるだけ丁寧に書いた十数年後のわたし宛の手紙だった。

 何年後かのわたしへ。
 元気ですか。メッソンとはまだ仲良しですか。いまのわたしはまだ弱いけど、メッソンと楽しくバトルをしています。もう一人前のトレーナーになれてるかな? もしかしてチャンピオンになってたりするのかな? もしチャンピオンになっているとしたら、メッソンと一緒になってたらいいです。その頃にはインテレオンになってるかな。
 好きな人はいますか。わたしにはまだ付き合うとかよく分からないけど、結婚しててもおかしくない歳だと思います。いまのわたしに好きな人はいません。気になる子はいるけど、結婚したいとかは思いません。それよりもバトルが楽しいです。
 あとなにを書こうかな。料理は上手くなっていますか? ピアノはまだしていますか? 書くスペースがなくなってきたので、これで終わりにします。身体に気をつけてね。
 わたしより。

 煙草を吸いながら幼い文字をなぞる。身体に気をつけてね、か。いままさに肺をいじめているところだ。
 メッソンは無事にインテレオンに進化した。いまでもきちんとわたしの相棒だ。ただ、バトルはすっかり辞めてしまった。トレーナーに向いていないと気づいたのは、たぶん手紙を書いてから五年後くらい。負けても勝っても楽しくなくなって、すっぱりと辞めてしまった。チャンピオン? はは、いまのチャンピオンとは一度だけ寝たことがあるな。
 好きな人はいない。週に二、三度セックスをする男はいる。ピアノを辞めたわたしがギターを始めるきっかけになった男だ。
 料理もまともにしないな。コンビニばっかりだ。
 いまのわたし、十何年前のわたしを裏切ってばっかりだ。笑った拍子に煙草の灰が落ちた。
「なに笑ってんですか」
 ベッドでスマホをいじっていたネズがこちらに声をかけた。
「なんでもないよ」
 そしてわたしたちはいまからセックスをする。付き合うとか結婚とか、いまだにわたしにはよくわからない。ただ、セックスをするだけだ。セックスは楽しい。気持ちいいし。
 十数年前のわたしへ。
 わたしは元気でやっています。
 わたしより。

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