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深夜、貨物ヤード裏の埠頭からコンビナートを眺めていた



 背中にネオンが照らす夜中、暗い海の向こう側を見ていた。片足だけ海に浸けて煙草を噛み締める。海は鉄とゴムとあと、ごみのにおい。灰が太腿に落ちた。そのまま口を開いて煙草を海に落とした。ごみがまたひとつ増えた。
 あの日ここから身を投げたあいつを思い出しながらまた煙草をポケットから出す。火もつけずにぼんやり、海の向こう側を見た。
 お前はきっと寂しくて、悔しくて、とても哀しかったんでしょう。
 おれはずっと虚しくて、苦しくて、お前が愛おしかったんですよ。
 身を投げたのがまるで昨日のことのように思い出せる。昨日だったのかもしれない。担架からだらりと垂れ下る色のない腕がまざまざと思い出せる。
 あいつの形に錆び付いた昨日を振り切るように、毎晩こうやって味のない煙草を吸っていても、なにも変わりやしない。今日をここに置き去りにして、あいつのいるところにまで行けたらいいのに、おれはそうしませんね。それはたぶん、淋しいお前を思い出せるのがおれだけだからです。おれが身を投げたら、お前がここに残したものがすべて無意味になってしまうから。
 ねえ、それはとても辛いことなんですよ。
 お前の残滓を必死に胸に集めてここに座っていることは。
 せめてお前が浮かび上がらなかったら、どこか海の向こうで生きていることが分かれば、おれは夜な夜な身体を痛めつけることもないんです。
 生きていかなければならないということは、大変辛いことなんです。
 ああお前は、それを十分に知っていましたね。

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