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罪と知りせば



〈どうせヒマだろ? ウチ来て〉
 キバナからのメッセージ着信音に起こされた午前十時。
 決めつけられたのは腹が立つが、確かに一日ヒマだった。〈すぐにか?〉と返事を打ちながら髪をかく。ひどい寝癖だ。
〈できるだけ〉
〈じゃあ一時間半後〉
〈了解。鍵は開いてるから入ってきてくれ〉
 呼び出される心当たりはまるでなかった。喧嘩か、殴られるのか、とも思ったがそれならわざわざ家に呼び出すこともないだろう。そういえばあいつの家に行くのは殆ど初めてだな、など思いながら髪と服装を整える。どうせ誰も見ないのだから適当な服でいい。その辺にあった洗濯済みの服を着て家を出る。よく晴れていた。
 電車に揺られて数十分、久しぶりにナックルに来た。スタジアムのすぐ近くのあいつの家は分かりやすい。部屋番号さえ定かではないが迷わずに辿り着けた。確か角部屋だったような――たぶんここだ。チャイムを鳴らして、ドアノブに手をかける。かちゃりと音がして、開錠されていたドアが開く。
「邪魔するぞ」
 と小声で言って薄暗い玄関に入り込んだ。廊下の向こうでなにかの鳴き声が聞こえる。ポケモンでもじゃらしているのだろうか、それで手に負えなくなってオレに頼んだとか。ゆっくり考えながら歩を進める。リビングへの扉を開いたとき、真っ先に目に入ったのは大きな人形だった。
「……え?」
 いや、人形じゃない。
 肌色の大きなそれは、裸に剥かれたキバナの恋人だった。両腕を粘着テープで拘束され、猿轡を噛まされている。綺麗な髪は乱れ、汗だくの額に張り付いていた。両脚は後ろから抱き支えているキバナによって大きく開かされている。脚の間はキバナの大きな手で覆われているが、ぐちゅぐちゅという水音を立てていた。
 思わず目を逸らす。
 さっきから聞こえていた鳴き声は彼女のくぐもった悲鳴だったようだ。
「おー、遅かったじゃん」
「どう、いうことだ」
 顔を背けたまま問う。「こっち見ろよ」「っ、」絡みつく水音がどうしても耳について仕方ない。振り切るようにまた正面を向くと、今度はいかにも楽しそうなキバナの表情が目立った。彼女の白い肌にキバナの浅黒い肌が重なる様子はとても生々しかった。
「んっ、う、んんっ」
 目をキツく閉じている彼女はいやいやと首を横に振る。オレだって、この状況はとても嫌だ。緊張しているオレとは裏腹に、キバナはにこやかに右手を動かし続けていた。左手は震える彼女の膝裏を掴んでいる。細い脚だな、と反射的に思った。
「どういうことか説明しろ」
 極力彼女を見ないよう、キバナと目を合わせる。
「んー、お仕置き?」
「は……?」
「オレがいない間にコイツに悪い虫がついててさ、気を付けろって言ったのに」
 聞けば、デートの待ち合わせ前に見知らぬ男にナンパされているのを見かけて逆上したらしい。そんな男についていくような女性でないことくらいオレはきちんと知っている。それなのにキバナは「だから、お仕置き」と同じ言葉を繰り返した。
 その言葉に彼女を見ると、柔らかそうな身体のあちこちに赤い噛み跡があった。首筋、胸元、乳房、腹、太腿、数え切れないくらいだ。キバナの犬歯が白い皮膚に食いつく様を想像して、ぞっとする。どれほど痛いのか、分かりたくもない。
「最初はネズに頼もうかと思ったんだけどアイツなんかノリ悪かったからオマエにしたわけ」
 平然と話しながらも手の動きは止まらない。大きな手でよかった、と少しだけ安堵する。彼女のそこが覆い隠されている分、助かった気分になった。ぐちゃりと音がするたびに「んっ、ん、んぅ」と彼女は泣いて、とても甘ったるい声をあげる。――却って卑猥さが強調されていて、下腹部が熱くなるのが分かった。
「お前、なに言って、」
「オマエならコイツも喜ぶだろ? なぁ?」
 最後の問いかけは彼女へのものだった。彼女は変わらず首をふるふると横に振って拒絶を示している。「ぅ、う」嫌だ、と言っているに違いない。当たり前だ。
「チャンピオンのちんこで躾してもらわねぇとな?」
 今度はオレと彼女のふたりに向けた問いかけ。彼女はさっきから胸を隠すように必死に身体を捩っている。白い脇腹にも噛み跡はあった。ごく、と喉が鳴る。
「あーあ、ほら、オマエがやらしい声出すからダンデのちんこ勃ったじゃん」
「そん、な」
 後退りするけれどそんなものは無駄で、オレの股間は隠しきれないくらい主張を始めていた。
「こっち来いよ」
 キバナのギラギラした目がしっかりとオレを見る。
「ほら、オマエもダンデ誘ってみ?」
 大きな手が彼女のそこから離れる。駄目だと分かっているのに、もう視線は釘付けになっていた。「ほら」とやけに優しい声を出して、キバナは赤く腫れたようになっている突起を指先で摘んだ。
「ん、うっ!」
 びくん、と大きく身体が跳ねる。彼女は仰け反って白い喉を見せた。「ぅ、うっ」とても苦しそうに、涙目でオレを見る。無意識のうちに舌舐めずりをしていたことに気付いた。
「ダンデがちんこ苦しいってよ」
 膝裏を掴んでいた手が今度は膝に置かれ、オレに向かって無理やり脚を広げさせる。「最近オレが忙しくて構ってやれてなかったもんな。チャンピオンちんこで教育してもらおうぜ」理屈の通らない言葉に頭が痛くなる。それでも、この状況で「やめろ」といえないオレも相当おかしなものだった。
「お前は、それでいいのか」
 に、とキバナは笑った。肯定だった。
「そうか。じゃあ……オレはオレの好きなようにする」
「んっ、んんっ!」
 適当に服を着てきたのは失敗だったな、と小さく思った。ベルトを外す間に、とても絶望した目で見られるのは苦痛だった。実際、オレは彼女とそこまで面識がない。恋人だと紹介されたっきりで個人的に話すこともなかった。あの時の彼女はとても可愛らしく微笑んでいて、こいつには不釣り合いな女性だと感じたのを覚えている。
 膝立ちになって腰を進めると、彼女はまた身を捩って逃げ出そうとした。「だーめ」だがキバナの大きな身体に遮られて、逃げ出せるはずもない。
「すまない」
 と小さく呟いて、熱いそこに性器を触れさせる。「ん、ん、ううっ」やめてほしい、と懇願するような涙目はとても扇情的で、だからオレはもう自分を抑えることができなくなっていた。
 ずぶ、と突き立てると「んぐっ、ううっ!」と籠った悲鳴が上げられた。
「オレのとどっちがイイ?」
 などと面白そうに訊きながら、猿轡が解かれる。
「や、あ、やだっ、や、や」
 がくがくと震えるたびに乳房が揺れてそそられる。堪らずそこに吸い付くと「ひ、ぃん!」と彼女は一際大きな声を出した。「お、またイった」どうしてこいつはずっと楽しそうなのだろう。狂っているのかもしれない。まあ、オレも狂っているに違いない。一層興奮して腰の動きを強めているのだから。
「だ、んで、さ、んっ、はなしてっ、やあ、やだっ」
 キバナに預けられていた身体がずるりと落ちる。だから腰を掴んで支えた。腰を浮かせて、思いきり叩きつける。
「ひぅっ! あっ、あああっ!」
 キツいな、と思った。思っただけで言わなかった。自分の息が上がっていることを悟られたくなかった。無駄な努力だろうけれど。
 キバナのものも相当大きくなっているように見えた。だが彼はそれを微塵も感じさせない表情で「もっと激しく動いてみ」などと煽る。遠慮なく動けば、ずちゅずちゅと淫猥な音が部屋に響いた。「ん゛っ、あ゛あ゛っ!」彼女のよがるところに当たったようで、もはや悲鳴とも呼べない大きな声が出る。きゅうとより強く締め付けられ「っは」とオレも思わず声が洩れた。
「や、だあ、やだ、なんで、っ!」
 必死な上目遣いでキバナを見、拘束されたままの両手でオレを払い除けようとする。
「こっちだ」
 いま犯しているのはオレなのだとはっきり分かるよう、顎を捉えてこちらを向かせた。「オレが躾けてやってるんだ」自分の口から出た台詞に驚く。「オレを見ろ」それはとても冷たく聞こえた。他人の言葉のようだった。
「や、だぁ、キバナ、ぁ、き、ばなぁ」
「オレじゃなくてダンデ。どこが気持ちいいか教えてやれよ」
「や、」
「嫌じゃなくて」
 それでも泣きじゃくるだけの彼女を呆れたように見て、キバナは臍の下をとん、と突いた。「この辺。子宮のうえ」腰を突き上げる。「い、あっ、あああっ!」また大きな声を出し、爪先をぴんと張らせて果てたようだった。
「そこ、ら、め、です」
 息も絶え絶え、という風に彼女は泣く。
「駄目じゃないだろう」
 変わらず、自分が言っているとは思えない声が出た。「好き、だろう?」まるで本当に動物の躾をしているみたいだ。
「す、きぃ」
 ピンクの唇が小さく動く。「そこ、すき、です」ひとつひとつ区切って、小声で喘がれた。「だから、だ、め」柔らかそうな唇。「ダンデ、さん」震える唇がオレの名前を呼ぶから、誘われる。顔を近づけて、キスしようとした。お互いの息が混ざり合うほどに近づいた瞬間、浅黒い指先が彼女の口元を覆った。
「キスだけはだーめ」
 からかうように、キバナはそう言った。
「これはオレの」
 ふと我に帰る。
「……お前、本当になんなんだ」
 今度はきちんとオレの言葉だった。なんなんだ、これは。自分がなにをしているのか、どうしてこんなことをしているのか、理解できるがしたくない。
 顔を上げて、緩めていた腰の動きを強める。射精しそうになったので一層激しく動くと、もう彼女は声も出ないくらいに憔悴していた。手が離されたあと、小さい唇から僅かに溢れる舌先が、とても愛おしく見えた。

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