惑う視線を夜に遊ばせて、若いふたりは運命的に恋に落ちた。そっと口付けた唇はハチミツみたいに甘かった。雨降る一番街、傘を投げ出してふたり抱き合った。柔らかい髪、白いシャツ、雨に濡れて笑い合う。夜の街はネオンや街灯でうるさくて、きつく抱き合っていないとお互いを見失いそうになるから。他の女は二度と要らないとさえ思った。 じゃれあいながら、自然にベッドへ溺れてゆく。濡れた身体をそのままに、体温を奪い合いながら落ちてゆく。今度のキスは生々しい味がした。ふたりの薄い唇が角度を変えて何度も噛みつくみたいに触れ合う。彼女の冷たい指先が首筋に蛇のようにまきついた。何時間もキスをしていたように感じる。舌と舌を絡め合い、呼吸を盗んで、酸素が足りなくなるほど口付けた。無音の部屋に唾液の音だけやけに響いて、余計にふたりを興奮させた。 濡れたシャツから透ける下着がダイレクトに欲望を掻き立てた。いつだって、単純なことがきっかけになる。丁寧なキスとは裏腹に、できるだけ性急に彼女を裸にさせた。寒い、と唇が紡ぐ。おれも全て脱ぎ捨てて、冷たい身体を寄せ合った。彼女の身体はゼリーみたいに柔らかかった。寒さに震える様が愛しい。 「優しくできねぇかも、です」 「ネズさんなら、喜んで」 雨の音、ザザ降りの音、ふたりの囁きをかき消すように。 そっと名前の脚の付け根に触れる。びく、また震えた。顔を覆った指の隙間から潤んだ瞳が見える。濡れた前髪がキラキラと輝いて。僅かに逃げようとする脚を掴んで、前置通り乱暴に熱で犯した。ずるずると引きつれる熱が毒みたいに全身に回る。 若いふたりは野性的に求め合った。今度のキスは血より濃い味がした気がした。 は、は、と自分の息が荒いのがわかる。耳まで熱くなっていた。夢中で腰を動かした。運命的で童話的な出会いはふたりを大胆にした。きつく、ひとつになってしまうくらい抱き締める。 「ネズ、さん」 ぎゅっと目を瞑る彼女の額に口付けた。 最後に彼女のなかに熱を吐き出すと、また雨の音に耳を侵される。街ごと流されるような雨。窓に叩きつける大粒の雨。 このままふたりで流されるなら天国にだって行ける気がした。シーツの海で溺れながら、おれたちはまたキスをする。血よりも濃い味がした。 - - - - - - |