オマエが泣くわけが花粉症じゃないことくらい、オレにはもう分かる。あのさぁ、オレの前でめそめそ泣くの、やめてくれねぇかな。無駄なのに、どうしたって笑顔にさせたくなるから。悲しくても嬉しくても、泣かれると弱るんだよ。空を飛べとか言われない限りはなんでもするから、笑っててくれねぇかな。 「連絡がこない」 って泣くなら、代わりにオレがいくらでもメッセージ送ってやるし。 「連絡がきた」 って泣くなら、オマエと同じだけオレも喜んでやるし。 とにかくさ、オマエがアイツのことが好きで、オレのことなんて友達にしか思ってないことはわかってて、それでもオマエが泣くとどうしたらいいか分からなくなる。 午前三時に泣きながら意味不明な電話をしてきても、オレは黙って聞いてやる。薬を飲みすぎたというなら電車がなくたって家に行ってやる。だからさぁ、泣くのだけはやめてくれよ。慣れた手つきで吐かせながら、やれやれと思う。白い陶器のなかに吐き出されるのは薬と、アイツへの重たい気持ち。また泣いているのは、吐いたことに対する反射だろう。 「眠れるまでそばにいて」 って泣くなら、いつまででもそばにいてやるし。 オレは恋人以外のなにかで、たぶん外から見たら友達以上のなにか。都合のいい男かな。でもそれでもいい。あのさぁ、だから泣くなよな。オレたちの間柄なんて他の誰かが決めればいい。オレはただ、オマエに泣いてほしくないだけ。 「いつもごめんね」 って泣くなら、ありがとうって言われるまでそうするだけだし。 傷だらけの太腿に包帯を巻きながら、オレはできるだけ楽しい話題を出す。血が滲んで、いくら取り替えても癒えない。血が出続ける分、オレたちは一緒にいられるから、それでいいけど。今日さ、ダンデとさ、なんて当たり障りない話をして、どうにか笑顔を引き出そうとする。あのさぁ、早く笑顔になってもらえねぇと、オレ困るんだよな。どうしたらいいか分からなくて。 まだぐすぐすと泣いている背中を撫ぜながら、次になにをしようか考える。今日はいつになく泣き止まないな、なんて思いつつ、もう楽しい話はネタ切れになってしまった。 「ごめんね」 ってまだ泣くもんだから、あのさぁ、次は空くらい飛んでみせようか? - - - - - - |