×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ヨギナクサレ


 頑張って買ったロッキンホース。不必要にヒラヒラがついた服。不眠症の街に足音鳴らすあたし。昨日喧嘩したから、バイトばっくれてやったんだ。ロッキンホースは手に入ったし、もう頑張りたくない。退屈な毎日、抑圧された現実、どれも頑張りたくなくなっちゃった。あたし、始めからそんなできた人間じゃないから、世界からもばっくれてやる。
 そんなあたし、死神と出会ったの。
 その死神はたくさんの人の救いを求める手に囲まれて、ギラギラ煌めいていた。ロックスターだった。ネズっていう、有名な死神。猫背で病気みたいに細くって。
 あたしたちすぐに恋に落ちた。不条理だねとあたしが問えば、不条理ですねと彼は応える。だけどあたしたち許されない恋だった。人気のロックスターにちっぽけな女は相応しくないといわれた。被害妄想? 分からない。
 ネズは「この頃ラブソング増えたね」と言われることをなにより怖がった。言う方はたぶんなにも考えてなくて、でもあたしたちふたりを脅かすには十分だった。だってネズは救いを求める人々たちのものだから、あたしひとりに固執しちゃいけないから。
 誰かに打ち明けたこともない。諦めた。あたしたちの恋を祝福されることは。
「逃げようか」
 ネズはあたしたちのために逃走を決めた。ううん違う、あたしたちで決めた。膠着状態の現実を殴り飛ばして、妥協して生きていくくらいなら逃げることを決めた。この恋が暴かれる前に。
「逃げよう」
 不眠症の街でネオンが落ちる頃、あたしたちは不条理から裸足で逃げ出した。走りにくいロッキンホースを投げ出して、窮屈なユニフォームを脱ぎ去って。
 あたしたち、本当は祝福されたかったの。
 余儀なくされたの。

- - - - - -