派手なユニフォーム、派手なメイク、ブブゼラみたいな謎のグッズ(これも派手)、常に喧嘩腰。おれの頼もしい応援団はどこからみても治安のいい人間たちじゃない。だけど全力で応援してくれているし、彼らなしではおれはパフォーマンスが全力でできないと思う。煙たい街からオシャレタウンまであの格好で来るのはどうかと思うが。 いまのはつまりファン、お客さんのこと。おれの曲を聴いてくれて、ライブに来てくれて、なぜか妹の応援までしてくれる人たち。はっきりいうよ、ステージから見るとどれもみんな同じに見えるんだ。さすがに男か女かくらいは分かるけど、いや、たまにわからないひともいるか。変だよね、おれの書く自己満足的な歌詞にみんな感動するんだって。 今日は馴染みのライブハウスでのワンマン。先日出したばかりの新譜ばかり演るけど、たぶん全員予習済み。 メイク前にジャムパンを齧る。お手軽にカロリーが摂れるので痩せぎすのおれにはうってつけのファストフード。ついでに猫背も治ればいいのに。 「さっき物販覗いてきましたけど、新作を早速買ってるコいましたよ!」 「あのダサいTシャツをねえ」 あ、と思う。 「どんなひとが買っていましたか?」 「女の子です」 「具体的に……いやもういいです」 うまく口でキャッチできなかったジャムパンが僅かに零れ落ちた。あの子だ。直感的にそう感じる。 あの子。名前も知らない、でもいつもライブに来てくれるあの子。ノゾミでもカナエでもモモコでもない、あの子。さっきステージ上からだとみんな同じだなんていったけどあれは嘘だ。あの子は特別目立って見える。髪色? 服装? なんだろう、わからない。ただ、誰よりもライブ中楽しそうにしていて、おれはいつだか突然それに気がついて、駄目だと分かっていながらもその子が来ているとつい視線をやってしまう。彼女はおれを観に来ているんだから、当然目は合うし、そうすると今度は勝手に気まずくなってすぐに逸らしてしまう。歌詞も飛ぶし。 あの子はきっといつもひとりで来ている。だから今日もひとり。次のライブもひとりかな。 最後の一口を飲み込んだところで慣れた手つきでメイクを始める。時間ギリギリまでメイクをしないのは楽屋が暑いから。ステージ上のネズは完璧に近いネズでなければいけない。穴だらけで錆び付いた完璧、ではあるけれど。簡単にいうとメイクが崩れるのがヤということです。 「そろそろお時間ですけど」 誰かの声。わかっています、ああ前髪が鬱陶しい。 あの子、今日はどこにいるだろう。今夜もありったけの声を振り絞って名前を呼んでくれるだろうか。少しの震えが走る。大丈夫、今夜もおれはおれ。もう何十回も歌っているのにどきどきするのは、間違いじゃない。 暗転。 いつものサポートメンバーが楽器を鳴らす。歓声が上がる。 スポットライト。 「ネズさんっ!」 いつもの声が弾けた。 思わず口元が綻んで、 「やあみんな、今日も暇なの?」 さあ、キミとおれのショーの始まりだ。 - - - - - - |