サングラスの向こう、赤茶けた視界に飛び込む〈ジムリーダー・キバナに恋人発覚〉の文字。つい手に取って見るとぼんやりした白黒写真に現れたのは紛れもなくおれの恋人だった。サングラスを外してもう一度見る。猫っ毛の背の低い、あいつだった。おれはもうパニックになってその場から立ち去る。雑誌はきちんと元の位置に戻した。 メッセージを何度も送って、電話も何度もした。あいつは出やがらない。イライラする。おれは浮気相手だったのか。おれは二番目だったのか。いちばん好きだよなんて微笑んでおいて。 十何度目かの電話。「もしもしぃ」あいつはひどく間抜けな声で出た。「いま起きたよぉ」そんなことはどうでもいい。おれはさっき見た雑誌のことを捲し立てた。混乱していたのでちゃんとした文章にはなっていないかもしれない、でもいい、怒りが伝われば。 「ああ、あれ」 こともなげにあいつはいう。「上手くいったね」ベッドから降りるような音がした。意味が分からなくて説明を促す。うぅんと背伸びした声。 「だからさ、目眩し」 「は?」 「わたしとネズの恋が暴かれちゃ嫌だから、目眩し」 突拍子もない言葉にふらついた。確かにおれたちの恋は誰にも言っていない。マリィにさえも。騒がれるのが嫌なのと、別に誰に教えるものでもないと思っていたからだ。 「わざと目立つところでキバナと会って、噂になるようにしちゃった。だってネズと付き合ってるの誰にも知られたくないもん。ネズのファン、怖いし」 まるで悪びれない言葉を聞いていると、なるほど確かにと頷きそうになる。 「わたしたちだけの秘密は、わたしだけのもの」 「そう、ですね」 わたしたちだけのもの、という言葉が嬉しくて声が少し上ずる。 ただ、キバナのファンも怖いですよ、という台詞は飲み込んだ。 - - - - - - |