初めて会ったときから、マクワくんは宇宙人に見えた。やけに滑らかに話す唇、サングラスの奥の輝く瞳、くるくる動く器用な指先。いまでも、実はそうなんじゃないかなって思ってる。理由は分からないけど、地球に落っこちた宇宙人。こっそり教えてくれないかな、わたしたちだけの秘密にできるのに。 対してメロンさんはすごく人間だ。面倒見がよくてさすがお母さんと思える。そんな人間から生まれたのだから、もしかしたらマクワくんも人間なのかもしれないけど、やっぱりそうは思えなかった。 「はい?」 初めてそんな話をした日、マクワくんは頓狂な声を上げた。 「いままでいろんなこといわれてきたけど、さすがにそんなのは初めてです」 そりゃきっと、わたししか気付いてないからだよ。 その可愛いルックスで地球を侵略しにきたのかな? たぶん違うよね、友達を探しにきたんだと思う。ところが人気者として祀り上げられて、本当の自分を出せなくなって、きっとわたしの前でしか素直な自分を出せなくなってしまって。サングラスの奥にとても可愛い瞳があるってことは、わたししか知らないんだよ。キラキラした、宝石みたいな瞳。 わたしたちは恋人同士だから、マクワくんが宇宙人ってこと、ふたりの秘密にしていいよ。大好きだから、それくらいの秘密はあってもいいよね。 「誰にも言わないよ」 「言えないでしょう、そんなこと」 「例えば、ねえ、ここじゃないどこかに連れて行ってほしいな」 「……例えば?」 「そうだね、宇宙に行ってみたい」 やれやれと肩を竦め、その日はマクワくんは帰って行った。 その夜はやっぱりマクワくんの夢を見た。宇宙で、見たこともないものを見せてくれて、誰もしたことのないハネムーンをした。見たくもないものを全て消してくれて、もう地球に未練はないなんて思ったりして。もしかしたら昼間の会話でハッキングされたのかも。こんなにマクワくんのことばっかり考えるのは付き合い始めてからも初めてだ。 寝苦しい夜だった。窓を開けて夜風を取り込む。この風に乗って宇宙まで行けたらな、なんて思っていたら、すぐしたに宝石が見えた。キラキラした、マクワくんの瞳。 「ここじゃないどこか、連れて行ってあげます」 届かないのに、こちらに手を伸ばしている。まるでロミオとジュリエット。本当は宇宙人と地球人。悲劇じゃなくて、ハッピーエンド。 慌てて着替えて下に降りる。この柔らかい手を取ったら、宇宙まで行けるの。夢じゃない。 - - - - - - |