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テンプテーション



 カップを持ったまま不用意に立ち上がったら案の定紅茶をこぼした。すっかり温くなっていたので火傷はしなかったけど「あーあ」と間抜けな声が出る。膝から下を思い切り濡らしてしまった。「なんだ?」とキバナさんがキッチンから顔を出す。「こぼしちゃいました」ぽたり、スカートに染みていた紅茶がフローリングに滴った。するとキバナさんは慌ててクロスを持って出てきた。「火傷はしてないです」少し過保護なところがある彼は、たぶんわたしのことを硝子細工かなにかだと思っている。「あーあ」さっきのわたしみたいな声を上げて、キバナさんは床に広がった紅茶を拭き取った。ごめんなさい、と小さく謝る。気にすんなよ、と笑い声で返ってきた。あらかた拭き終わったところで、キバナさんはまだ濡れているわたしの爪先を手に取った。「そ、れは自分でやります」驚いてクロスを貰おうとすると、手の届かないところに投げられた。キバナさんは傅いて、爪先に舌を這わせる。「や、やめてください!」でも足首を掴む彼の力は強くて逃げられるはずもなく、わたしは椅子に縋り付いて恥ずかしさとくすぐったさに耐えるだけ。生温い舌が親指を包む。親指の付け根から先までをゆっくり舐めとり、次に人差し指、中指と順に唇がなぞっていく。「っあ」びくん、と肩が震えた。「うまい」と意地悪なことをいって、キバナさんは今度は足の裏を舐め始めた。「やっ、や、」背筋が粟立つ。初めての感覚に涙が出てきた。どうせ彼以外の誰にも聞かれないのに、必死に声を噛み殺す。次は踵、アキレス腱、脹脛に舌が動いた。紅茶で濡れていたところはもうすっかりキバナさんの唾液まみれになっている。膝、太腿、ときて「もっ、だめです、やめてください」懇願するように彼の目を見るけど、悪戯っぽく笑うだけで動きは止まらない。するといよいよ全く汚れていないそこに顔を埋めようとする。頭を押し返そうとしたけど逆に手を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。がた、と椅子がずれる。薄い下着越しに熱い舌がそこを這う。恥ずかしい。さっきまでの戯れで濡れてしまっていることがばれてしまう。唇を噛んで羞恥と戦う。「は、ぁ」それでもやっぱり弱く声は出てしまって、キバナさんを喜ばせることになってしまう。片方の手で下着をずらし、今度は直接舌が触れた。「いっ、や、あ」わたしの腕を掴んでいたキバナさんの手が離れた。今度は足を閉じないように膝を掴まれ、ぐいとこじ開けられる。「んっ、ん、ん……っ」は、は、と夏場の犬みたいに荒いキバナさんの息。いちばん敏感なところを何度も刺激されて、彼の頭を押し返そうとするわたしの手からだんだん力が抜けていく。もうわたしの頭のなかは蕩けてしまっていた。「は……、あっ」何度目かの刺激で、わたしは気を遣った。「も、むり、だから……っ」それでも舐めるのをやめようとしないキバナさんから逃れるように身を捩る。それからさらに虐められて三度は果てた。彼は顔を上げて、泣きながら喘ぐわたしを見る。そして満足そうな顔をして抱き上げた。「次はオレの番」ニヤリと笑う意地悪な彼には永遠になにもかも敵わない。

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