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動かなくなるまで、好きでいて。



 耳を掴まれたぬいぐるみのようにくったりと丸まってしゃがんだわたし。時計が午前四時を知らせるチャイムを鳴らした。げほ、と咳き込んだ拍子にさっき食べたもの混じりの胃液が出た。茫然自失。なにが起きたか分からない。友人と久々に飲むから遅くなる、朝になるかも、でも大丈夫、ちゃんと帰ってくるから。そういって昨日の夜に家を出て、いましがた帰ってきたばかり。部屋着のキバナが冷たいで目でわたしを見下ろしている。わたしはまだぼうっとしていた。帰るなり胸ぐらを掴まれて壁に叩きつけられた。背中を強かに打って、吐いた。辛うじて「い、たい」と小さい声が出る。酔いなんて一瞬で醒めた。キバナは近づいてきて、今度はお腹を思い切り蹴る。「ぅ、あっ!」爪先がお腹に食い込んだ。「ごほっ」またびしゃりとアルコールの混じった胃液を吐く。喉が焼けるように痛い。フローリングがどんどん汚れていく。「な、なんで」「あ?」少しの口答えも許さないというように、次は拳が降ってきた。思わず避ける。キバナの拳は壁を殴った。「避けんなよ」舌打ちをして顎が掴まれる。あ、と思ったときにはもう遅くて、顳に拳が叩き込まれた。ぐわん、と世界が揺れる。「ッい、っ!」次は頬、口元、唇が切れて口のなかが鉄の味がした。「こんな時間までなにしてたんだよ」最初からそういえばいいのに――声が出なくて切れた唇だけが動く。友達と、いた。説明したのに。「男か」違う「オレ以外の男といたのかよ」ち、がう。「ちが、う」肺を絞るような声でやっと抗う。「違わねーよ」キバナは理不尽なことを言ってまた拳を振り上げた。「やめて……っ!」手で庇っても他のところが殴られるばかり。「誰だよ、誰といた」「おい、説明しろ」「寝てんじゃねーよ」「答えろ」矢継ぎ早に降りかかる悪態と殴打。わたしはごめんなさいごめんなさいと泣くだけ。「答えろっつってんの」油断したところでまたお腹を蹴られた。「ごめ、なさい」「ともだちと、いました」「なにもしてない」やっと言葉が出てきても途切れ途切れ、キバナの満足する回答ではない。どういえば解放されるのか分からないわたしはまたごめんなさいと泣く。謝るのが気に食わないのか、キバナは血がついた拳を何度もわたしに浴びせる。もう何時間も殴られている気がするのに、時計を見ても十数分くらいのものだった。お土産、買ってきたんだけどな。きっとキバナは寝ついているだろうから額にキスして小声でただいまをいう予定だったんだけどな。おかしいな、いつもキバナを抱き締めている腕は自分の顔を庇ってばっかりだ。「顔はやめて」それだけ何度も懇願するけれど、聞いてもらえない。きっともうひどい顔になっている。こんなわたし見られたくない。可愛いわたしだけ見てほしいのに。「なあ、オレ以外の男とヤってきたのかよ」そんなわけない、わたしにはキバナしかいないのに。「そ、んな」口の端から血と唾液の入り混じった液が垂れる。キバナもさすがに手が疲れたのか、拳を振り解いて血がついた手の甲を摩っていた。悪いことなんてしてない、今日もキバナの話ばかりしてきた、どうしてこんなことするの。あちこちの骨が軋む。「もういいわ、オマエ」相変わらずくたりと蹲るわたしに、キバナは冷たくそう言った。最後に鳩尾の辺りを蹴って、踵を返す。「まって、」わたしは慌てて追い縋る。床を舐めるように這って、必死にキバナの脚に縋り付く。「捨てないで」こんなにひどくされてもなお「お願い」いくら殴ってもいいから「傍にいて」

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