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時には少年のように



 大人になって随分経つ。オレはもう駄目だ。すっかりマトモになってしまった。髭も生やしたし仕事もきちんとする。およそふつうのひとと同じ、もしくは少しだけ忙しい日々を送っている。いろんな耐性もついた。あんなことやこんなことも知っていることだし。恋もしてきた、愛も拾ってきた。「君の瞳に乾杯」なんて口にしたこともある。それでも、こんな気持ちは初めてだった。
 君が忙しく動くたびにぴょんぴょんと跳ねるポニーテール。その下には眩しいうなじ。大人ならこれくらいで心を乱されはしない。けれど、ああ、時には少年のように素直に欲情することもあるんだ。いまがそれなのに、きっと君は気付いていない。汗の滲むうなじから、くらくらするほど君の匂いがする。白いシャツのしたにうっすら透ける下着だって、形のいい尻が浮いたタイトスカートだって、少年の心をかき乱すには十分すぎるんだ。過ぎるほどだ。
 オレは君を抱き締めてキスする空想をする。それ以上のことも、知っているだけにタチが悪い。無垢な少年なら欲情するだけで終わるのに。昼夜問わず襲ってくる淫らな願望。ところも構わず懸想する愚かな欲望。回虫のようにのたくる汚い感情。何度も君を想像して手を汚した。仕事中に我慢できなかったことさえある。でも君の前ではしっかり大人をするんだ、幻滅されたくないから。汚いものなんて持っていない顔をして、平然と仕事の話をする。君の目がオレを見ている間は大人のダンデであらねばならない。けれど君が後ろを向いた瞬間からその仮面を外しそうになる。もし後ろから襲いかかったらどんな顔をするだろう。泣くだろうか、怒るだろうか。そんな無意味な妄想すらしてしまう。マトモな大人なので、顔には出さないが。
 バトルをしていても、なにをしていても止まらない君へのふしだらな思い。ある意味では純情なだけかもしれないな。素直に思いを告白して楽になればいいのに、それをしないのは彼女に恋人がいることを知っているからにほかならない。困らせたくない、仕事上で気まずくなりたくない、大人なオレはそれくらい分かっている。
「ダンデさん?」
 聞いてますか、と君は恐る恐る問いかける。
「聞いていたよ。続けて」
 本当はなにも聞いてやしない。小さい唇が動くのをずっと見ていた。甘やかな声が何度もオレの名を呟くのだけをじいっと聞いていた。ボタンをひとつ開けた胸元からは綺麗な鎖骨が見える。口付けて、痕をつけてみたい。噛み付いて、歯形を残してみたい。汚れた大人のオレはそんなことばかり考える。時には少年のように、ただ欲情するだけで終わりにできればいいのに。

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