×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ゆめゆめ



「じゃあ、またね」
 電話を切ると、途端に寂しくなる。がちゃりという音がふたりの糸を断ち切るようで。さっきまでいっぱいだったネズがどんどん溢れていく。耳から口から。頭のなかに残るネズの姿を思い出しながら、わたしは少しだけ泣く。最初から分かりきっていたことなのに。離れ離れでもいいって言ったのはわたしのくせに。すっかり夜も更けて、空にはいっぱいの星。ネズの空はどんな空だろう。天気が異なるほど離れているわたしたちは、お互いがなにを見ているのか全く知らない。毎日メッセージを交換して、ネズが忙しくないときには長電話もする。月に一度はきちんと会うけれどそれだって足りない。本当は心だけじゃなくて身もすっかりネズのものにしてほしい。だけど、仕事やお互いの環境がそれを許さない。もう少しの辛抱だ、と頼りない約束を自分にして、ベッドに潜り込んだ。ネズの夢を見た。



「じゃあ、また」
 電話を切ると、途端に恥ずかしくなる。まるで空っぽの映畫館にひとりでいるような気分になって、高揚した気持ちを誰とも分かち合えない感じだ。おれだけがロマンチックなシーンを何度も回想しているようで。泣きはしないけれど、それに近いものがこみ上げてくる。最初から分かりきっていたことなのに。離れ離れでもいいと言った彼女に甘えているくせに。カーテンから覗く夜はとても静かだった。ネオンの光で星は見えないけれど、雲ひとつない広い夜空だった。あいつの空はどんな空だろう。晴れているといいけれど。こういうときに同じものを見ていないというのは、とても虚しい気持ちになる。毎日連絡を取って、ライブのない日は呆れるくらいに長電話をする。月に一度は慣れない変装もしてこっそり会うが、欲張りなおれはそれくらいでは満足できない。本当はなにもかもすっかり手に入れたい。もう少しの辛抱だ、と自分に言い聞かせて、ベッドに潜り込んだ。あいつの夢を見た。

- - - - - -