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401号室より



 彼女の隣には男が住んでいる。「挨拶しかしないけど、普通のひと」だと彼女は言った。無害ならいい。単純にそう思った。毎週金曜日の夜、おれは彼女のマンションにお邪魔する。少し治安の悪い地域のオートロックの五階建て。その四階でエレベーターを止めて角部屋にこっそり入る。極力、誰にも見られないように。チャイムを鳴らして数秒「いらっしゃい」とにこやかに出迎えてくれる彼女は先にシャワーを浴びている。濡れた前髪を少し鬱陶しそうに弄りながらスリッパを出してくれて「何か食べる?」おれはそれに返事もせず抱き締めて壁に縫い付ける。「あ」と間抜けな声を出す唇をさっさと塞いでしまうために。濡れた唇は甘く、柔らかかった。食むようなキスをして、それから舌を差し入れる。彼女も抵抗せず控えめな声を洩らしながら舌を絡ませ合う。一頻りそうしているとがくがくと彼女の膝が震えてその場に崩れ落ちた。キスだけでしっかり濡れてしまうことなんてとうに分かっている。「待って」なんて言うけれど大きな目は期待に濡れている。薄い部屋着を脱がせてすぐに指先で可愛がろうとすると、思った通りそこは難なく指の侵入を受け入れた。「あんっ」反射的におれの肩を掴んで抵抗する素振りを見せるけれど、それが本気でないことくらい誰にだって分かる。同時に、今日も壁の向こうからごそごそと物音が聞こえ始めた。毎週、毎回、決まってこうだ。彼女は気づいていないが、耳のいいおれは随分前からそれが気になっている。おれたちのセックスが始まるたびに「普通のひと」の部屋は少し騒がしくなった。はっきりいってノイズになっている。まあ、それを上回るほど彼女の声は大きいのだけど。指で解れたそこは火傷しそうなほど熱くなっている。身体をずらして、下腹部に顔を埋めた。「やめっ、だめだめだめっ」「どうしてです?」「き、きたない……っ」「シャワー浴びてるでしょう」何度も繰り返している行為なのに新鮮な反応が返ってくるからやめられない。一頻り舌で喜ばせて、子猫のような鳴き声を楽しむ。隣から聞こえる物音は激しくなる一方。爪先がぴんと張って彼女が気を遣ったことを確認すると抱きかかえてベッドまで運ぶ。さすがに玄関先でするほど愚かではない。くったりした身体をベッドに沈めるとスプリングがぎぃと小さく鳴った。とうに我慢ができなくなっていたおれのものをあてがうと僅かに身を捩らせる。意味のない抵抗。それを鼻で笑うように挿入すると「あっ、あっ!」と甲高い、大きな嬌声を上げた。「あまり大きな声を出すと、隣に聞こえちまいますよ」耳元でそう囁くと、慌てて両手で口を塞いだ。「んっ、んんっ」鼻にかかった声が却ってそそられる。「いじ、わる」上目遣いでそんな可愛いことをいわれるとたまらない。両の手を掴んでベッドに縛りつける。「やっ、あっ、ああっ」途端に堰を切ったように喘ぎ声が溢れていた。ぐちゃぐちゃと交わる水音と、肌のぶつかる音、それときゃんきゃん鳴く彼女の声――隣の部屋からの衣擦れの音も激しくなる。はは、ナニしてるかは分かってますよ。だから今日はサービスしてあげます。こいつには悪いけど。「もっ、イくから、ぁ!」いちばん弱いところを執拗に突く。腰を掴んで少しうえの方。彼女は弓形の仰け反って「あっ、あっ! やあっ!」と一際大きな声を出した。もう隣のことなんて気にしていないように見えた。「イく、イく……ぅ」泣きそうな声を出して、また彼女は果てた。荒い息を奪うようにキスをする。「ん、ん」僅かに洩れる声がまた可愛い。「おれはまだイってないんで」とピストンを続けると今度は悲鳴に近い声が出た。「っい! だめっ、だめっ! も、むりだから、ぁ!」激しさを増すスプリングの音、隣部屋から聞こえる小さい呻き声、ぞくりと背筋が粟立つ。「っは、出しますよ……っ」どくん、薄い隔たり越しに彼女のなかに射精した。は、は、とお互い息が荒い。今度は触れるだけのキスをした。「ん……っ」とろんとした目。行為のあと、彼女は決まって眠くなる。おやすみと頭を撫ぜ、逆に目が醒めるおれは最低限の服だけ着てベランダに降りた。一本だけ吸おう。柵に寄り掛かって火をつける。ほう、と一息吐いたところで「おわ、ネズだ……」という声が聞こえた。隣の男だ。なるほど確かに「普通のひと」としか言いようがない平凡な顔をしている。大学生のようにも見えた。少し興奮気味に「俺ファンなんすよ!」と言ってくれた。内心、笑いが止まらなくなる。さっきまでナニしてたくせに、そんなこというんですね。――さて、どうやって虐めてやろうか。

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ドえらい矛盾があるんですけど放っといてください…

20200512
やっぱ気になるので書き換えました