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ふゆのほし



 鏡に映ったおれの瞳はがらんどうで、死んだ色をしていた。
 あれからどれほど経ったろう。あいつが出て行ってから。冷たい水で顔を洗って目を覚ます。目に滲みる冷たさが「これは夢ではない」ことを知らしめた。
 カーテンを開けると雪だった。ネオンライトに降り積もる柔らかな白に、あいつの面影を重ねた。そうか、出て行ってもう一年になるのか。あの日もひどい雪だった。さくりさくりと雪を踏みしめ、緑のブーツであいつは去って行った。壁に貼ったあいつとおれの写真は冷たい陽の光に凍りついていた。ああ、写真のなかではいつまでも笑顔なんですね。あの最後の日、泣き出しそうな顔だったのが嘘みたいだ。
 どうして別れなければならなかったのか、おれはいまだに分かりません。「ネズの邪魔になりたくない」なんてきっと方便でしょう。それがきっとお前の優しさで、残酷なところ。「ライブに行くよ」の言葉を信じて毎回歌うけれど、お前を見つけられたことはありません。
 一年も経って、たぶんあいつの側には支えてくれる誰かがいる。おれの側には誰もいないのに。雪の景色を見ながらぼんやりあいつとの日々を思い出す。「雪だよ、わたし雪大好き」そういって真っ新な地面に足跡をつけるのがすきだった。そんなお前はいまどこにいますか。同じ景色を見ていますか。届くはずもないのに、あいつがすきだった歌を口ずさむ。日々のひとつひとつがあいつを思い出させて、おれは魘されるばかり。かつての幸せの分だけ惨めになる。
 また凍りついた写真の笑顔を見て、虚しくなって破った。ちょうどおれとお前が離れ離れになる。窓を開け、二枚とも捨てた。やがて降り頻る雪とともにふたつとも見えなくなる。最後まであいつはおれに笑いかけていた。いなくなってもなお、優しくて残酷だった。

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