全く、オレからみたら、ネズのはバンドじゃなくて宗教だ。 なにしろあの子は教祖にイカれてる。底が分厚い靴履いて、似たようなデザインで何枚も持っているTシャツのどれかを着て、ライブにかかさず参加する(参加じゃなくて参戦か)。 あの子は教祖を追っかけて、トランクひとつでどこにだって行っちまう。このオレを放っておいて、白黒頭に夢中なんだ。 構って欲しくてギターを始めたのに、あんたなんか興味ないといわんばかりにシカトされている。いや、態度は言葉より正直だ。あの子はオレに興味がない。目つきが悪い神サマにしか興味がないから。 オレだって、ギター下手なわけじゃないんだぜ。パフォーマンス見てみろよ。オレ様のスイングに女子は熱中するんだぜ。 それでもあの子は教祖に痺れてる。それは叶いっこない恋だって、オレはちゃんと知っているのに。いや、たぶんあの子だって分かってる。素晴らしい歌で寂しさごまかしてるんだ。 「あたしこれ聴くといつも泣いちゃうんだよね」 初めてアルバムを貸してくれた時、恥ずかしそうにそう言った。なんとしてでも会話の糸口が欲しかったので何度もそのアルバムを聴いたが、オレの宗教ではなかった。 今日もあの子は神サマのことばかり考えている。 「新しいネイル見て見て、どう? 似合う?」 カラーコードでいうならc61373、彼女はカラフルな指先を見せびらかした。気に入らない。 「オレ、この間のネイビーのネイルが好きだったけどな」 「あっそ」 つれない返事にがっくり来る。 ネイルまで神のためなんだから、オレに尋ねる必要はないのに。 ただし、インストなんかのためにファッションに悩む彼女は世界一かわいい。似合う?と不安そうに、でもなにかアドバイスしても「アンタには興味ない」という顔で「そっかー」と言うだけ。 彼女の神サマはそこまで見てないのに、たぶん。 「あたしネズに出会えて本当に幸せ」 それをオレの目の前で言う彼女に悪意はない。残酷なことに。 でもその幸せは仮初のものだって、分かっているはず。どんなにオシャレしてもどんなに追っかけても、ネズはあくまで教祖サマのまま。手は届かない。焦がれる彼のラブソングを聴いて、勝手に背景を想像して泣いて、それでもその曲に救われて。破滅的なマッチポンプだと思う。 あの子がその事実に辛くなったら、オレが宗教になってあげるんだ。爪の色も心の色も、オレが決めてあげる。オレの意思で、オレだけの君にしてあげる。 「なんか食いに行かねぇ?」 「物販に並ぶからもう行かなきゃなの。じゃあね」 いまは眼中にも入っていないけれど。 - - - - - - |