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サスクワッチランカー



 昔からダンデはオレのライバルだった。そう思っているのはオレだけで、ヤツからしたら一介のチャレンジャーに過ぎないとしても。
 彼女もオレのライバルだった。実力は拮抗、オレの方が少し上。負けるたびに悔しそうに泣くからまるで子供を苛めているようでバツが悪くなる。勝った日には嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねてオレを楽しくさせてくれる。長い髪、白い肌、まるで雪原を行く野ウサギのよう。
 そしてダンデは彼女の憧れだった。「すばしこい」と評されるスマートな彼のバトルは彼女の理想であり恋だった。
「面白い子がいるらしいね」
 ある日ダンデはオレにそう訊いた。「キバナのライバルと聞いたよ」それは紛れもなく彼女のことだった。殆ど無名の彼女をどうやって見つけたのかは知らない。オレは急なことにまともに返事もできず「まあ」とか「一応」とか短い言葉しか返せなかった。
「いつか彼女と戦いたいものだ」
 そう伝えてくれ、とダンデは覇者の笑みを浮かべた。嫌味のないそれは余計にオレを苦しめた。
 隠し事ができないオレは彼女にそれをそのまま伝えた。大きな目がさらに大きくなって、頬は紅潮する。口元を手で覆い「嘘でしょ」と振り絞るように、でも嬉しそうに呟いた。春のことだった。冬にはダンデにチャレンジしたい、という彼女のためにオレは何度も相手をした。いまはまだオレとの試合では勝率は四割ほど。
 夏、彼女はスタイルを変えてみた。素早さ重視のそれは「すばしこい」彼に憧れたものだろうか。悪くない。オレたちの勝負は五分五分になってきていた。「うーん、上手くいかないなあ」負けると悔しそうに頭をかくけれど、もう泣くことはなかった。
 秋、まだ暑さの残る時期、オレは手加減すると負けるようになった。満月の輝く夜、楽しそうにポケモンを繰り出す彼女をずっと見ていたいと思った。肌寒くなる頃にはオレの全力勝負と渡り合えるようになってきた。「よっしゃ!」喜びから飛び跳ねる癖はいままでと変わらず。
 そしてとうとう目標にしていた冬がきた。
「ねえ、わたし、ダンデと戦えるよ!」
 初めて雪が降った日、鼻の頭を赤くして彼女は嬉しそうに報告した。「オマエなら勝てるよ」鼻の赤さは寒さのせいなのか泣いたのか、一層ウサギらしく見えた。
 最高の晴れ舞台の日は生憎大雪だった。吹雪といってもいい。眠らない街の輝けるスタジアムで対峙するウサギと覇者。カメラに抜かれる表情は、それぞれ勇者のようだった。
 色鮮やかに舞う閃光、風を切る轟音、そこはふたりの似合う景色。
 結果的に彼女は負けたけれど、無名のチャレンジャーの善戦に会場は沸いた。ダンデも歓声を上げる。大画面に映し出された彼女の笑顔は、とても誇らしそうだった。彼女の幸福が街全体を包んでいた。
 オレはとても複雑な思いでふたりを見ている。埋もれていた彼女を「すばしこい」ダンデが攫っていってしまったことが悔しかった。けれど彼女とここまで密になれたのは彼のお陰でもある。オレは街のように幸福であり、けれどとても孤独だった。
 彼女らの約束は果たされた。この後、オレたちはどうなるのだろう。
 窓に映るつららのように鋭さを増すオレの焦燥感。ライバルと親友を一気に失ったかのような虚ろに、黙って背を向けることしかできなかった。

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