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暁の断頭台



 空は暁、闇夜が明ける。罪より暗い、闇夜が明ける。

 彼女の寝顔を見ていると一睡もできなかった。不思議と疲れはなく、いつまでも眺めていられる。まだすうすうと寝息を立てている彼女は触れれば溶ける雪女のように色が白く、子猫のように柔らかい。抱く毎に壊れてしまわないか心配になる。シーツを必死に掴む指先はいつも冷たい。泣くように喘ぐ声音はか細く、キスで奪い取ってしまえるほど。欲望をぶつければびくんと跳ねる細い体躯。すべてが掌に収まってしまいそうなほど小さくて弱々しい。ああ、オレが守ってやらないといけない、そう思わせる。
 実のところ、彼女がオレを好いていないことは明白だった。結婚という制度で無理やり縛り付けて手元に置いておくオレは狡猾で卑怯だ。公的な申請を済ませてから嫌がる彼女に指輪を強制的に嵌めた日のことを昨日のように覚えている。身寄りのない彼女は泣きながらそれを受け入れてくれた。嬉し泣きでなく、悲しみと憎しみの涙だった。結婚してからは逃げ出せないようあの手この手で拘束している。オレのいない間は家から出られないようにさえしている。それでいいんだ、この家だけが君の居場所なんだよ、分かってくれるかい。食事はオレが用意するし、運動不足なら家のなかをうろうろして掃除でもしてくれたらいい――重いものさえ持たなければ。
 幸せすぎて、業を重ねすぎて、きっとオレは天国にはいけない。地獄の穴で彼女を恋するのだと思う。それでいい。いまこの寝顔を見られるだけで天国に行けるよりも幸福なのだから。

 空は曙、朝日が昇る。血よりも赤い、朝日が昇る。

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