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ソレイユ



 更衣室にタオルを替えに向かう。両手が塞がっている状態なのでどうやってドアを開けたものか考えていると「やあ」と後ろからカブさんが声をかけてきた。「お疲れ様」常日頃からカブさん好きを公言してやまないわたしはここぞとばかりに一緒についてきてくれるようお願いした。快諾してくれた彼は少し呆れたような顔をしていた。
「カブさんとふたり、嬉しいなー」
 足取りも軽く、仕事なのも忘れて一方的に話しまくる。今日の試合もかっこよかったこと、昨日もかっこよかったこと、とにかく大好きなこと。もう何遍もいっている「すき」にカブさんは「はいはい」といなすような反応をする。それもまたすきで「あー、カブさんすきー」と脳直で話してしまう。
「あのねえ、」
 ギィ、とドアを開けながらカブさんはいつもと同じ言葉をいう。
「そんなに簡単にすきなんていうものじゃないよ」
 ばたん、ドアの閉まる音。
「だって世界でいちばんすきなんですもん」
 タオルを籠にしまう。角を整えて、はい終わり。つまらない作業だけど隣にカブさんがいるだけで随分楽しい。
「あのねえ、」
 目の前に影が落ちる。振り向くとカブさんの顔がすぐ近くにあった。わたしの頭のうえに腕をついて、真剣な顔をしている。
「ぼくだって男なんだ」
 わたしは固まって動けなくなった。近いし、いっていることが分からない。眉間にしわを寄せた彼は「本気にしてしまう」と小さく呟いた。首にかけたタオルで口元を押さえて、恥ずかしそうに。本気にしてもらって構わない、だって
「わたし本当にカブさんがすきです」
 全てを見透かすような鋭い目つき。更に顔が近づいてくる。鼓動がうるさい。唇が近づいて、そしてキス――しなかった。
 カブさんはわたしの頭をぽん、と撫でた。触れられてもいないのに唇がじんと熱い。きっとわたしは真っ赤になっている。
「すき、はもっと大切にしなさい」
 ああそんなあなたがすき。はい、と返事して、すきです、と唇だけで呟いた。心のなかでなら何度いってもいいよね。大好きですカブさん。あなただけ。

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