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ザジ



 ひとりめは友達だった。口論になった弾みで強めに肩を押したところ、テーブルの角に頭を打ち付けて死んだらしい。君はすぐおれに電話をかけてきた。混乱もせず、冷静に。おれはすぐに飛んでいって事故に見えるよう画策した。警察というのは結構バカなもので、案外簡単に騙されてくれた。友人宅でスリッパで脚を滑らせて転倒。目の前でそれを見てしまった君は動揺して彼氏のおれに電話してきた。現場検証が終わったあと、君はとてもにこにこしていた。「あいつ前から縁切りたかったんだよね」おれは「事故って怖いですね」と応じた。そう、あれは事故だった。いつもと違う位置にテーブルがあったことなんて警察は知らないし、おれも気づかないふりをした。葬式には参加しなかった。
 ふたりめのときはナイフを握ったままおれの家にきた。黒いワンピースに返り血が見えた。深夜、誰にも見られないようバイクで君の家に戻る。ドアを開けるとすぐそこで君の親友が血塗れで倒れていた。何度も刺した跡がある。そういえば君の顔、汚れていると思ったらそれも返り血だったんですね。「また喧嘩しちゃった」おれはすぐに白い手袋をつけて君を刺した。それで、強盗のせいにして警察を呼んだ。チープなトリック、でもまた彼らは騙されてくれた。「この辺は治安が悪いですからね」といって引越しを勧められた。君はその通り、退院してからおれの家の近くに引っ越してきた。治安の悪さは変わらないというのに。
 さんにんめ、今度もナイフを持ったまままたおれの家にきてまた舌を出す。「また殺しちゃいましたか」「えへ」「悪い癖ですよ、それ」ほら、髪が赤い。おれはまた白い手袋をつけて君の家に向かう。寝室で男が血塗れで倒れていた。「まさか彼氏を?」「うん、疲れちゃって」もう誰でもいいおれが隠してあげるから。少し苦労したけれど変質者に襲われたことにした。以前強盗に襲われたので自衛のためにナイフをベッドサイドに置いておいたと警察にすらすら答える君には少し驚いた。前々から用意してあった台詞に聴こえたから。この男と君が交際していることを知っているのはおれだけだったので今度もすんなり警察を欺けた。この街の警察は馬鹿なんだなと思った。白い手袋をつけたまま、君と手を繋いでおれの家に帰った。その日から君はおれの恋人になった。
 疲れちゃったという理由でひとを殺す君がすきだ。本当はそんなことしなくてもいい。そんなときは甘いものでも食べてゆっくりすればいいのに。帰り道、「ケーキでも食べませんか?」と君に訊くと「バカ」と笑った。ああ、そうですバカなんです。もしシャーロック・ホームズが出てきてもおれがきっと守ってやります。そういうと君はきっとまた「バカ」と笑うでしょうね。三人も殺しておいて笑える、君が大好きです。
 もしまた殺してしまっても、おれがなんとかしてあげます。暗い夜の道を、白い手袋つけてふたりで逃げよう。誤魔化しきれなかったらおれが代わりますから、心配しなくていい。「えへ」と笑う君がいなくならないように。君が殺してしまった人間の友達なんかが悲しんでいるところなんか見たくないでしょうから、その間はケーキを食べていてください。そんなひとが君の目の前からいなくなるようお祈りしておきます。罪悪感なんて抱かなくていいように、「えへ」と笑っていられるように。そんなおれをまた笑うでしょう。「バカ」って。ああ、バカだよ。

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