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幸と贄



 砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒー、プレートにはスクランブルエッグにバターを塗ったトースト、それからチョコレート一欠片。君のための食事を作る毎朝はとても楽しい。最初は上手くいかなくて見た目が悪くなったり焦がしたりしたけれどいまはもう慣れたものだ。最後にミニトマトを添えて、君の部屋に運んでいく。君はまだベッドのなかで微睡んでいる。オレはその可愛らしい寝顔につい頬が緩んでしまう。毎朝見ているはずなのに。この家でいちばん陽当たりのいい君の部屋。カーテンをゆっくり開けると朝の光が筋になって部屋に広がった。窓に背を向けている君はそれに気づかない。「朝だよ」とベッドに腰掛けて揺さぶれば「ん……」と夢見心地の声。「朝食を作ったから、食べなさい」子供にいうみたいにオレは君に声をかける。君は上体を起こして座ったままコーヒーを受け取る。少し熱いかもしれないな、ふぅふぅと冷ます唇が可愛くてキスしたくなった。そうしてしまうと馬鹿なオレは歯止めが効かなくなるから我慢するけれど。こくりとコーヒーを飲んで、君はやっと目が覚めた顔をする。眩しいのか眉を顰めて「おはよう」ああ、ひどい寝癖だ。そっと後ろ髪を梳いてやる。君はくすぐったそうな声を上げた。それから、君が朝食を食べ終えるまで眺めるのがオレの至福の時間。「おいしい」もぐもぐと口を動かしながら彼女は微笑む。まるで本当に子供みたいだ。プレートを綺麗に平らげて「ごちそうさま」はい、今日もおいしく食べてくれてありがとう。オレも微笑んで、皿を下げる。「今日は少し遅くなるんだ」というと、君は寂しそうな顔をする。とても可愛かったので我慢できず額にキスをした。――家を出るまでにあと三十分はある。ああなんて、幸せな朝なんだ。



 コーヒーの匂いと料理をする音が階下から聞こえる。たぶんスクランブルエッグに、トースト、それもバターをたっぷり塗ったやつ。ダンデは毎朝わたしのために朝食を作る。初めはとてもひどいもので、でも食べられなくはなかったのでありがたく頂いていた。そうでもしないと、なにをされるか分からないから。いまのところ、食事抜きの目にあったことはない。いつそうなるか分からないけれど。とん、とんと階段を登ってくる音が聞こえてくる。朝が始まるんだ。今日もいちにち、陽当たりのいいこの部屋のどこにも行かれない生活が始まる。わたしはそれに抗うようにぎゅっと目を瞑る。カーテンの開く音がして「朝だよ」とダンデが囁いた。肩を揺さぶられる。もう少し寝ていたいけれど拒否すればなにをされるか分からない。「ん……」わたしは目を擦りながらいかにも眠そうに返事をした。「朝食を作ったから、食べなさい」その言葉には有無を言わせない強さがある。本当は彼の作ったものなんて怖くて食べたくない。なにが入っているか分からないから。それでも目の前で見られていると拒否するわけにもいかず、まずはコーヒーからいただく。熱かったのでふうふうと冷ましているとダンデが熱っぽい目でこちらを見ていた。たぶんキスをしたいんだと思う。そうされると、そのままずるずると抱かれることになるのでとても嫌だ。けれど彼はなにもしなかった。プレートに乗っているのは大方予想通りの朝食。ゆっくり食べながら「おいしい」と感想をいう。――頂きますというのを忘れた。怒られるかもしれない。にこにこと微笑むことでそれをごまかして、すっかり平らげた。「ごちそうさま」今度は忘れずにいえた。「今日は少し遅くなるんだ」少しでも彼から離れられる時間が増える。嬉しそうな顔になりかけて、慌ててそれを堪える。きっと彼には寂しそうな表情に見えたはずだ。顎を掴まれ、額にキスをされた。嫌だ、触らないで。だけどそんな思いも虚しく彼はわたしをシーツに押し倒す。ああなんて、不幸な朝なんだ。

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