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都合のいいワルツ



 オレが初めて自分の気持ちを伝えたとき、彼女は嘲笑った。「冗談でもつまんないよ」そして虫でも追い払うように手を振って「わたしネズのことしか考えられないから」と付け足した。知っている。十分すぎるほどに。あんな男のどこがいいんだと常々思う。猫背で死体みたいに白くてすぐに折れそうなほど細い、バトルも地味で歌は小難しい。彼とオレはまるで正反対で、だから絶対にオレに靡かないこともはっきり分かっている。はっきりとオレはネズを嫌悪していた。彼女のために。彼らはきちんと恋人同士だった。きっかけになったのは他ならぬオレで、だからこそオレが彼女を好きになるのはとても滑稽なことだった。オレは食い下がった。少しの希望を見出したかった。けれど彼女は可笑しそうに「またそんなこといったらネズにいうから」などというのだった。
「君が好きだ。オレと付き合ってほしい」
 図書館で偶然彼女を見かけた日、オレは懲りずにまた告白した。彼女はうんざりという顔をして持っていた本を棚に戻した。そしてオレの手を引いてどこかに連れて行く。外のベンチにはサングラスをかけたネズが座っていた。
「ねえ、ネズ」
「はい」
 こんにちは、とネズはなにも分かっていなそうにオレに挨拶をした。オレはただ頷く。
「ダンデが、わたしのこと好きなんだって」
「……はあ?」
 サングラスをずらし、ネズはオレと彼女を交互に見る。品定めするみたいに。オレは急な展開にぽかんとしている。ネズにいう、なんてオレを躱すための冗談だと思っていた。「ずっと前からわたしが好きなんだって。付き合ってほしいんだって」その言葉は嘘ではない。何度も伝えた言葉だ。
 冗談だと捉えたのか、ネズはふっと笑った。
「やめた方がいいですよ。こいつには手を焼かされる」
 オレはなにもいえないでいる。
「どうしてもというならチャンピオンの座とトレードしてもらいましょうかね」
 サングラスを外してネズは応えた。「冗談ですよ」もちろん、分かっている。なにもいわないオレを訝しげに見て「ところでどうしてお前がダンデと一緒にいるんですか」と彼女に尋ねた。「さっき図書館で会った」それも嘘ではない。さっきから彼女はなにも嘘をついていない。
「仕事中でしょう。なにしてんですか。迷惑かけるんじゃねぇですよ」
 彼女を叱りつけて「忙しいのにすみません」とオレに謝る。
「おれはまだここにいますから、お前もさっさと用事を済ませてきてください」
「はーい」
 彼女はオレの腕を掴んだまま、ふたりで図書館に戻った。
 本棚の陰で彼女はオレを鼻で笑った。
「お許し出なかったね、残念」
「――ネズが許せば君はオレと付き合うのか?」
「そうだね、ネズがわたしの全てだから」
 彼が望むことをするだけだよ、と彼女はいった。そこまでしてネズといたい理由はなんなんだ? オレでなく、どうしてネズなんだ? ぐるぐると頭を攪拌する疑問は決して解決されない。
「出直さなくてもいいよ、チャンピオン」
 最初にそうしたように虫を追い払う仕草でオレを退けようとする彼女。
「次からネズに相談して」
「……分かった」
「じゃあね」
 そういえばオレが怖気付くとでも思ったか?
 言葉通り、次からはネズに「彼女がほしい」と伝えることにするよ。希望をくれてありがとう。だからオレは君が好きなんだ。

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