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右手はイジェクト



 アイツは昔からネズのことがすきで、それなのにオレと付き合っている。嘘をつくのが下手な可愛い彼女。初めは嫉妬で気が狂いそうになったがいまでは諦めた。側にいてくれるだけでいい、慰みものにオレを選んでくれただけでいい。心までオレのものにならなくても、身体があるからいいや。最低な考えだったが、そう割り切らないとやるせなかった。たぶん、支配欲とか優越感もあるのだと思う。ネズに恋している女を自分のものにしている。そんなこと、ネズの与り知ったことではないにせよ。
 だからオレはアイツがネズのライブや試合を観に行くことを禁止していない。入り待ちや出待ちをしても気にしない。結局最後にはオレのところに来ると分かっているから。
 例えばライブがあった日の夜、アイツは決まってオレを求める。汗だくになって帰ってきて、すぐにシャワーを浴び、髪を乾かして下着のままソファのオレに甘えるんだ。「ねえ?」それはとても可愛くて。
「今日はどうだった?」
「いつも通りだよ」
 いつも通り好きだった、か。
 一抹の嫉妬を紛らわすようにオレは激しくキスをする。抱き寄せて、唇をぶつけて、舌を絡ませて、ずっと濡れているそこに指を這わせた。アイツはいつも左手でオレのものを触る。毎回、ライブ後には右手でネズと握手するからだ。はっきりそう聞いたことはないがオレには分かる。好きな女のことくらい、なんだって分かる。
 指先に喘ぐ身体を冷たい床に押し倒してできるだけ優しく抱く。毎回目を閉じるのは恥じらいじゃなくてネズを思い出すためなんだろう。じゃあきっとネズがするように甘く優しく抱いてやるよ。それがオレの、オマエに対する愛情だから。ぶっ壊れるくらい激しく抱いてみたら、どんな顔をするだろうか。毎回そう思うけれど実行したことはない。オレなりの愛情をアイツに注いで叶わない恋をひっそり応援してあげる。それはとても、滑稽だった。
 ネズはアイツが自分の熱狂的なファンだと思っている。「この間のライブも来てくれましたよ、ありがとうございます」オレは「特別扱いしてやってくれよ」なんて軽口を叩きながら、その実、ネズの首を絞めて殺してやりたいほど憎らしく思っていたりする。ただのファンじゃねぇ、オマエに恋している女だ。「お前の彼女ですからね」「なんか特典あんの?」「関係者席で観ていいですよ。次のライブは招待します。お前も来たらどうですか?」「そりゃいいな」よくない、ちっともよくない。話だけ聞いて、アイツには言わなかった。
 どうしてオレと付き合っているのか尋ねたことがある。
「……好きだからだよ」
 嘘をつくのが下手な、可愛い彼女。手を繋ぐときも絶対に左手しか出さない可愛い彼女。身体まるごとオレのものになっても、心と右手だけは許してくれない可愛い彼女。どうかオレの哀れな気持ちに気付いてくれ。同情でもいい、いつか本当の愛をくれ。

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