小説、詩集、ぬいぐるみ、好きなアーティストの映像集。とにかく好きなものを集めた部屋を作り上げた。いつまでもいられる部屋を。欲しいものがあればなんでも聞く。すぐに買ってきてあげる。おれは君の召使い。 君はベッドの上で怯えた様子でこちらを伺う。親とはぐれたウサギみたいだ。おれはそっとベッドに腰掛ける。僅かに後退り。君は一定の距離を保とうとする。 「朝ご飯ですよ」 適量のシリアルが入った皿を差し出すと、首を横に振って強く拒否した。食べたくないなら仕方ない。後で捨てておこう。ベッドサイドのテーブルに皿を置く冷たい音が部屋に響いた。シリアルの横には昨日与えたサプリメントと睡眠薬がそのままになっていた。 「また寝てないんですか?」 今度は首を振ることもしない。さっきから何も言わないので、おれは弱ってしまう。君はおれを困らせる天才なのかもしれない。 絹のように美しい髪を左手で撫でる。ウサギは涙を湛えた瞳でおれを見た。昏い瞳。しばらく太陽を見ていないせいだろうか。生活時間も乱れているし。 そのまま指先で輪郭をなぞる。君はあからさまに嫌がって身体を離した。 ぎりり、おれの指先が引きつる。 不満があるなら言って欲しい。 好きなもの、どれも集めて幸せな空間を作り上げたのに。君の好きなもの、おれの好きなもの。そう、大切なものを守るための部屋なら、外から鍵をかけるのも普通だろう? ウサギが逃げ出さないように。 「……か、帰りたい」 その言葉におれは異常に焦る。帰る? 君の居場所はここだけなのに。どうしてこんなおかしなことを言ってしまうんだろう。 だって、君がいなくなってしまったら、おれはひとりになってしまう。 「それは二度と言わない約束ですよね」 ぎりり、ぎりり。 指先の力が加減できない。青白い頬に爪が食い込んで、君はとうとう泣き出す。おれは品定めするみたいに君を眺める。 「……ごめんなさい」 「謝る必要はないです。君の家はここなんですから」 謝罪の言葉は夢を打ち消す。おれはまだ夢を見ていたい。一緒にいたいから。 一緒にいたいから、外から鍵をかける。 ウサギ、逃げ出さないように。 - - - - - - |