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ギミック



 ただ、怖かった。なにもないわたしがダンデに愛されることが。皆の憧れがどうしてつまらない女のわたしなんかを愛するのだろう。彼はわたしに全てを差し出した。わたしが望むなら、チャンピオンの座だって簡単に退くだろう。彼は恐怖でわたしを支配した。彼にその気がなくとも。彼の愛をこの身に受ければ、彼は満足した。デートをして、キスをして、セックスをした。わたしは彼なんか愛していなかったのに。彼はわたしを常にそばに置こうとした。少し買い物に出れば着信は八十件。強制的に住まわされたふたりの愛の巣に戻れば暴力に近い愛情が待っていた。折れるほど抱き締めて「君が消えたかと思った」と泣きそうな声でいうのだった。消えてしまいたかった。怖くてそんなことできないけれど。たぶん、同時に彼に憐憫の情を抱いていたのだと思う。こんなつまらないわたしに恋してしまった、無敵の男に。
 それから、キバナに出会ってしまった。彼は愛なんて信じない軽い男で、簡単にわたしに手を出した。彼もまた皆の憧れだった。わたしは困惑した。どうしてわたしなんかに手を出したの。そう問いかけると「オマエがダンデの女だから」と最低な答えが返ってきた。勝てない腹いせにわたしを寝とってやろうという算段だった。けれどわたしは歓喜した。つまらない女だったわたしが、ダンデの恋人という価値ある人間になれたのだ。キバナはわたしたちの関係がダンデに知られることを望んだ。あからさまに毎日電話をかけてきて、ダンデを煽った。ダンデはその度にわたしを責めた。オレがいるのにどうして他の男と話すんだ。わたしは答えられなくていつも泣いて誤魔化した。泣くと彼は毎回許してくれた。
 いまはわたしというつまらない人間に価値を与えてくれたダンデに感謝をしている。彼の目を盗んでキバナとセックスする毎に着信は百件ほど溜まった。キバナはそれにプライドを満足させた。消えてしまいたいなどといまは思わない。何者でもなかったわたしはふたりの男性を喜ばせる女になっていた。恐怖と快感と憐憫と、それから色々な感情が綯い交ぜになって溶けていく。いつまでもこうしていたい。わたしの我儘はそれだけだった。

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