×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




テクレ



 行為のあと、キバナは優しくシャワーを浴びせてくれた。それから髪を乾かしてくれて、服を着せてくれた。恋人にするみたいに。けれどボロボロになってしまったわたしは礼もいわず彼の家を飛び出した。「またな」と背中で彼の声が聞こえた。
 来たときの二倍以上の時間をかけて家に帰った。少しでもキバナの痕跡を薄れさせるように。
「おかえり」
 ドアを開けるや否や、兄さんが立っていた。
「た、ただいま」
 後ろ手にドアを閉めると「遅かったですね」と兄さんは問いかけた。なにもかも見透かされている。わたしは「うん」と消え入りそうな返事をした。兄さんはわたしの腕を掴む。キバナがしたみたいに。そのままフロアマットのうえに組み敷かれてキスをされる。いつもより乱暴なキスだ。かつん、と歯が当たる。呼吸も許されない激しい口づけ。「知らない匂いがします」兄さんは無感情にそういって、わたしの服を破くみたいに脱がせた。「待って、」「待ちません」ほとんど無理やり、兄さんはわたしを抱いた。それはまるで、数時間前にキバナにされるのだろうと覚悟していたセックスと似ていた。乱暴で、ひとりよがりの、単調なセックス。
「キバナはどんな風にお前を抱きましたか」
 なかを穿ちながら、兄さんは信じられないことをいった。
「おれより感じましたか」
「……っ」
 嫉妬、なのだろうか。兄さんは見たことない表情でわたしを犯した。少し痛みを伴うそれは、初めての体験だった。
 行為のあと、兄さんはさっさと自分だけシャワーを浴びて部屋に篭った。わたしは帰ってくるであろうマリィになにも察されないように玄関を一通り掃除した。それから今日二度目のシャワーを浴びた。涙が出た。
「今日あいつ帰って来ませんよ」
 三人分の夕食を作っていると、珍しく兄さんがキッチンに来た。
「あ、そうなんだ」
「友達の家に泊まるとかいってました」
「メッセージ見逃しちゃったかな」
 普通の会話が、妙に怖い。わたしは兄さんの目を見ずに、調理を続ける。すると兄さんはわたしの後ろに立って、首筋にキスをした。そのまま唇が耳まで這う。くちゅ、と音を立てて耳を舐め始めた。
「に、いさん」
 冷たい手が服に侵入して身体中を弄る。もう料理なんてできない。わたしは身体を兄さんに委ねた。
 その晩、兄さんは四度もわたしを抱いた。とてもとても乱暴に。自分の欲さえ満たせばそれでいいという風に。何度も気を遣って気絶しかけるたびに起こされた。たぶん、キバナに抱かれてしまったことに対する怒りなのだ。だから、わたしは受け入れるしかない。愛するひとの怒りは愛される者が浴びるしかないのだ。
「ごめんなさい」
 兄さんはベッドに倒れ込んでわたしに背を向けた。
「兄さん以外に抱かれてごめんなさい」
「……どういう意味です」
 兄さんはこっちを見ない。
「わ、わたし、兄さんを裏切った……」
 兄さんしか愛せないくせに、兄さんにしか愛されないくせに。
「はは」
 乾いた笑い。兄さんはこっちを見ずに、おかしそうに続ける。
「お前、なんか勘違いしてませんか」
「え……?」
「別におれとお前は恋人同士じゃねぇんですよ」
「兄さん、」
「そうです、おれとお前は兄と妹です」
 わたしは動揺する。思わず自分を抱き締めた。愛されていると思っていた身体がとても冷たく感じる。
「でも、兄さんはわたしを――」
「あいしてる、ですか?」
 はは、と兄さんはまた笑った。
「お前がいると都合がいいんですよ。分かってると思ってましたがね」
 分からない、なにも分からない。
「お前、恋人のつもりでしたか」
 首だけで振り向いて、兄さんはじとりとわたしを見つめた。「怒っちゃいませんよ。キバナと比べたのはただの興味です」
 兄さんにしか愛されないと思っていた、のに。
 兄さんの愛に必死に縋って生きてきたのに。
 急に露わになった兄さんの本性が怖くて、わたしは逃げ出すように自分の部屋に戻った。兄さんは後ろでまだ笑っている。
〈また明日来てくれ〉
 ベッドで震えていると、短いキバナのメッセージを受信した。
 わたしは泣きながらキバナに了承の返事をした。傷を癒すための包帯は必ずしも清潔でなくていい。キバナにもらった指輪に滴った涙が、シーツに染みた。

- - - - - -