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アウトサイダー・アート



 ある女の子のために曲を作った。クレイジーでノイジーで。愛を叩きつけるように音にした。途中で何本かギターを駄目にした。夜を燃やすように歌詞を書いた。愛を叩きつけるように。音に殴られて、音を殴り返した。アートを知らない人間が情熱だけで絵を描くように。
 ライブでは絶対に演らない、いまは。ふたりが死ぬまではずっと。
 誰にわかるものか、おれたちのために書いた歌が。
 誰にわかるものか、おれたちの恋が。

 キャンバスのふたりは出会ってしまった。君しかいない。あなたしかいない。生憎美術館はお客さんでごった返しているから、僕から手は差し出せないんだ。ええわかってる、わたしはあなたを待っています。

 歌詞を見せたら死にたがりやはケラケラ笑った。
「あたし、これ好きよ。きっと世間に評価はされないと思うけど」
 眼で、息で、全身で、衝動的に書き殴った汚い字。読めるだけで凄いのに、彼女は感想までくれた。
 納得のいく音が出せるまで、何度も彼女を付き合わせた。「うるさいなぁ」そう文句を言いながらもニコニコしている。大して上手くない自分が悪いのに、苛ついてギターを投げたりして。普段はものにあたったりしない。この恋は、自分を壊す。

 夜な夜な、キャンバス、破って、ふたり恋をした。誰にも見られないワルツを踊るふたりの表情は、オークションで高値がついた絵画のそれだった。アウトサイダー・アート。情熱だけで描かれた絵さ。情熱迸るふたりは出会うべくして出会ったのさ。

 本当の恋にキャンバスはない。あるのは世間の目と、社会的評価。よくないんじゃないの、その関係って。なんて誰に言われたか覚えていない。
 ロジックなんか通用しない。
 堕ちていくおれたちの恋はアウトサイドの絵画と同じ。死にたがりやと寂しがりや。本来出会ってはいけないふたりが恋に落ちたのだから、化学反応が起こってもおかしくないのだ。マイナスの情熱を燃やして、寂しがりやは彼女のために歌を作る。
「名曲だよ、ネズくん。あたし以外にはわからないだろうけど」
「それでいいんです。それで」
 音楽に理屈はいらない。第三者の評価もいらない。おれたちはキスのひとつでラブミーテンダーを越えた。
「あたしたちが死んだら、きっと誰かが見つけてくれるよ、ゴッホの絵みたいに」
 キスの後、ラムネ、齧るみたいに死にたがりやは眠剤を食べる。アウトサイドだ。そうだ。この姿を永遠に残しておきたくて。ただし、おれと彼女以外にはわからない言語で。
 自分たちならわかる。この歌にはクレイジーでノイジーな美しさがあると。誰に評価されても嬉しくない。ハグのひとつでイマジンを越えた。音楽のジャンルなんて無意味なものだから。
 死にたがりやと寂しがりやがこの後どうなるか、誰にもわからない。ただ分かるのは、おれたちが死んだらこの曲も死ぬということだけ。ゴッホみたいに評価されることは決してないということだけ。
 部屋の隅で、使えなくなったギターだけがふたりを眺めているようだった。

 
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