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拝啓、兄さん



 兄さんへ。
 いままでいちども「兄さん」などと呼ばれたことがないので少し戸惑っているかもしれませんね。それはわたしの細やかな抵抗であったことに、気づいていましたか。あなたはわたしを溺愛してくれました。それは妹としてではなく、あきらかにひとりの女性として。いまだからはっきりいえますが、わたしはそのことを嫌悪していました。否、いまもしています。兄は兄であり、恋人にはなり得ません。あなたが初めてわたしに触れた日をきのうのことのように覚えています。父さんと母さんが旅行に行って帰らなかったあの日、あなたは獣のようにわたしを犯しましたね。あの二日間は地獄のように思えました。あなたは、兄の仮面を外さないままわたしを抱きました。キバナという精悍な男は、妹を愛する気の違った男でもあったのです。あなたの、兄さんの視線には物心ついたときから気づいてはいました。それでも、決して行動には移さないだろうという気持ち(それは希望であり、切望でありました)はあの日裏切られてしまったのです。わたしは少女というにはもう遅く、しかし女としてはあまりに幼かった。あなたはそんなわたしに欲情したのでしょうね。自分の思いのままにできる便利なおもちゃ。わたしは初めて抱かれた日に舌を噛んで死んでやろうかと思ったものです。痛いのでやめてしまいました。いまにして思えば、あのときに死を選んでいるとこんな手紙は書いていなかったのです。気持ちのままに書いているのできれいな字でないことを許してくださいね。あれだけひどいことをしているのですから、これくらいは許してくれるでしょう。兄さん、わたしはあなたを許しはしません。そのために恋人と逃げ出そうとするのです。恋人は、兄さんもよく知ったあのひとです。兄さん、然るにわたしはあなたを兄さんと呼びます。置き土産だと思ってくださいね。兄さん。わたしはすっかりあなたを忘れてしまうよう、努力します。許せるほどわたしは優しくないので、忘れてしまおうという魂胆です。兄さん。もうお分かりでしょうね。わたしは永遠にあなたの前から姿を消します。いままでのすべてはこの手紙にすべて載せました。愛しの妹からの、最初で最後の手紙です。あなたはこれを捨ててしまうでしょうか、燃やしてしまうでしょうか、それとも後生大事にしまっておくでしょうか。捨てて、燃やしてしまえば皆の憧れであるキバナ像は守られます。けれど大事にしまっておいてもし万が一誰かに読まれたら、あなたは軽蔑の目で見られるでしょう。兄さん。手紙をどうするかは、あなたに委ねます。それでは、もう時間ですのでこれでお終いにしますね。さようなら。
 あなたの妹より。

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