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子供騙し



 分かってた。バンドマンってモテる。特にネズはジムリーダー時代から人気があったし、音楽一筋になってからはライブのお陰でますます女人気が出た。ずっとそれが気に食わなかった。入り待ち出待ちは日常茶飯事、ひどいときは家まで押しかけるファンもいる。キバナさんにもそういうファンが多いと聞いたけど、それはどうでもいい。
 わたしは道の向こうにいるネズの追っかけを睨みつけながらカーテンを勢いよく閉めた。わたしたちはいまから話し合いをする。対の椅子に腰掛けて、アイスティーを飲みながら、冷静に。
「それで、言い訳は?」
 怒りに任せて口を開いたせいで殆ど怒鳴るような声音になった。
「違うんですよ」
 始まった。ネズは言い訳をするとき必ず「違う」から始める。特に、自分に負い目があるときに。
 思い出すだけで吐き気がする。ライブ後、ホテル街、わたし以外の女と腕を組んだ彼氏。迎えに行ったわたしがバカだった。目が合った瞬間、彼は腕を組んでいた女を突き飛ばしてわたしに駆け寄り「早く会いたかった」みたいなことを抜かした。それから「変な女に付き纏われて」といったようなことを口走った。女は泣き出してその場から走り去った。わたしはその場でネズを殴った。
「違うんですよ」
 ネズはまた言った。
「あのときも説明しましたけど」
「変な女と腕組むんだ」
「あいつが勝手に」
「ホテル街でなにしてたの」
 迷子だったとでも言うつもりか。誰かさんじゃあるまいし。ネズは言葉を探して口を動かす。「喫煙所を探していました」と結局バカみたいな理由。バカみたい。
「じゃ、ソファとテレビはわたしがもらうから」
「なんの話ですか」
「わたしがお金出したものはわたしがもらってく。明日にでも出て行く。いままでありがとう」
「そんな、」
 ネズが立ち上がってわたしの肩を掴む。「冷静になってください」「離して」手を振り解くと、ネズはこれ以上ないほど絶望色の眼差しでわたしを見つめた。
 分かってた。バンドマンってモテる。女には不自由しない。どうせあのときも出待ちしていた女の子が可愛かったから手をつけたんだろう。わたしが偶然見つけただけで、実はいままでに何回もやっているのかもしれない。
「違うんです」
 また始まった。
「違わないよ」
 わたしが見たものがわたしの全てなんだから。
「共用してた服は全部あげる。わたしの部屋は創作部屋にでもして。じゃあね」
「ち、が、」
 つうっと涙を流すネズ。後悔の涙を流されていまさら絆されるわたしではない。
 どうせ引く手数多なんだから、わたしと似た女なんてすぐ見つかる。向こうでたぶんまだこっちを見つめている女の子が実は運命の相手なのかもしれないしね。
「おれ、ほんと駄目なやつで、」
 分かってる、知ってるよ。バカだな。

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