「ふざけんなよ!」 頭に血が上って握った拳を振り上げると女はびくりと震えて手で顔を庇った。「ごめんなさい」消え入りそうな謝罪の言葉。オレは自分を落ち着けるために大きく息を吸って、吐く。 「なぁ、謝ればいいと思ってんのか?」 胸ぐらを掴んで吐き捨てるように言うと、女はまた「ごめんなさい」と震える声で謝罪した。その場しのぎの、口先だけの謝罪。それがまたオレをイラつかせるとまだ分からないのか。 「お前のご主人様は誰だ?」 「……キバナさん」 「オレが言うことは絶対だって、いい加減覚えろよ」 「ごめんなさい」 まただ。深呼吸で自分を落ち着ける。 「もういい」 手を離すと女は音を立てて床に落ちた。気分転換に煙草を吸うためにベランダに出る。女が後ろでなにか喚いているが聞こえない。 握ったままだった拳を解くと、掌に爪が食い込んだ跡があった。今日は殴らなかった。オレは偉い。全部アイツが悪いんだ。 - - - - - - |