なんでもするから一緒にいてくれ。 犬でも馬でもなんなりと。 「下手くそ」 君は左足でオレの頭を小突いた。 オレは小さい小さい君の足を優しく掴んでペディキュアを塗らせてもらっている。白い肌に似合うワインレッド。硝子細工みたいな脚に触れるのが畏れ多く、指が少し震える。そのせいで色がよれ、君は不機嫌になった。 「もうやんなくていいよ」 「いや、上手くやる」 「あっそ」 君はつまらなそうにさっき塗ったばかりの指先を見つめる。陶器のように白い肌に落ちる、長い睫毛の陰。血の気のない頬。まるで精巧に作られた人形。オレは人形の美しさを必死に保つ惨めな人形作家。陽の当たらない部屋でじっとりと君に綾なす日陰者。君の前でだけ。 君に尽くすことは気持ちがいい。側にいてくれるならなんでもできる。ヒーローのオレはこの部屋にはいない。君の前でだけ、欲望を露わにできる。 君に尽くしたい。君といたい。君に虐げられたい。君といたい。 邪な考えが脳裏をよぎって、手元がまたよれた。 「もういい」 君は左足で思いきりオレを蹴飛ばす。心地よい衝撃。オレは抵抗せず、冷たい床に強かに腰を打ち付けた。鈍い痛み、君がくれる心地よい痛み。 猫脚の椅子に腰掛けた君が舌打ちをする。オレを見下す視線。ああなんて、快いんだ。 「ほんっと、ダンデって不器用だよね」 つ、と爪先がオレの顎を捕らえる。強制的に顔を上げさせられて「謝って」と言われた。 「すまない」 「違う」 「……も、申し訳ありませんでした」 ああなんて、無様なオレ。惨めなオレ。こんな少女にいいようにされて。 ああなんて、浅ましいオレ。気持ち悪いオレ。こんな風に扱われて悦ぶなんて。 冷たい爪先が顎を擽る。オレは舌を出してはあはあと息を荒げた。君は目を細めて、それから爪先をオレの舌の上に乗せた。甘く、官能的な味がした。 「待て」 犬にするように、君は指示する。 舌の裏から唾液が出るのが分かる。早くこの菓子を味わいたくて仕方ない。オレは必死に希う。はあ、はあ。 「よし」 その様子を暫く眺めて、君は漸く許しを出してくれた。歯で傷をつけないように、ゆっくり口に含む。オレの汚い舌で君の繊細な脚を汚してしまうことに背徳感を感じた。背筋がぞくぞくと粟立つ。オレは犬がそうするように、四つん這いになって一生懸命君を味わう。爪先、足の甲、踵、どこも砂糖菓子のように蕩けてオレを駄目にする。腱、足首、脹脛、舌でゆっくり奉仕する。少しの汚れも取り去ってしまうように。膝まで舐めていたところで、君は指先でオレの額をとん、と突いた。 「そこまで許してない」 「……申し訳ありません」 下男のようにしおらしく謝れば、君はオレを跳ね除けて脚を組む。 「続き、して」 そして中途半端に彩られた爪先を差し出した。 どうやら機嫌は直ったようだ。オレは安堵して、また小さい爪先を掌に乗せる。 こんなオレ、他人が見たらどう思うだろう。だがそんなことはどうでもいい。 上手にするから一緒にいてくれ。 君を見ていると気が違う。 - - - - - - |