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ポジセツナイヒ



 実は寂しがりやでひとりごとが多い。不器用だから嫌いなひとと会うとすぐ顔に出る。そんなキバナでもわたしの隣にいるとずっと笑顔。自分が幸せになる場所をきちんと知っている。わたしをぬいぐるみみたいにぎゅっと抱きしめて寝るその柔和な表情は、なにもかも安心して預けている赤子のよう。
 幸せは目に見えないというけれど、こうやって分かりやすく愛してくれるキバナがとてもすきだと思う。
 彼に出会う前の自分はぼんやり忘れてしまった。確か、前の男に捨てられて自暴自棄になって、ひとりぼっちで酸欠になっていた。ひとりきりの部屋でどう生きればいいのか途方に暮れていると、キバナが人生に乱入してきた。最初は強引だった。無理やりデートで映画に誘われ植物園に連れていかれ、すきだと言われてすべからく恋人になった。
 朝起きてまずするのはキバナを揺り起こすこと。冬でも半裸で寝ている彼の体温は高い。なかなか起きないが、起きてからは早い。てきぱきと用意したものを食べて服を着て髪を整えて、
「早く帰る」
 と笑って家を出る。休みのわたしはひとりになった広い部屋で紅茶でも飲みながら彼が大きく取り上げられた雑誌など戯れに読むのだ。そうして時間は過ぎていき、あっという間に昼になる。ひとりのランチが終わればあとは適当に家事をする。そんなわたしたちは、まだ結婚しているわけではない。
 なんでもない瞬間に、ふと切なくなる。いまはしあわせ、だけど永久に約束された幸せではないことを思い出して。
 結婚が永遠の幸せだというつもりはない。だけど、幼き頃からの刷り込みで憧れはある。花嫁姿のわたしを、誰よりもキバナに見せたいと思う。
 なんとなく婚約した男女向けの雑誌など買ったこともあった。恥ずかしくてすぐに捨てた。
 キバナはこの関係をどう思っているんだろう。絶対に分からない彼の真意を考えれば考えるほど、切なさが増していく。寂しがりやで甘えん坊、そんな彼にはもっとお似合いのひとがいるのかもしれない。
 考えても仕方がないので家事をとっとと片付けたらあとは読書かスマホで気を紛らわせる。昼寝もする。気がついたら夕方になっていた。
 ああ、明日は仕事だな。仕事中は余計なことを考えなくて済むからすきだ。
 いつもより少し遅い時間にドアベルが鳴った。
「ただいま」
 キバナの声だ。振り向くと、後手になにかを隠している。
「今日さ、記念日なんだぜ」
 そして手渡される大きなバラの花束。まるで心当たりがない。付き合った記念日は先月祝ったし、ふたりの誕生日はまだ先だ。うっかり、なにかを忘れているのかと思って少し考え込む。キバナをコートを脱ぎながらそんなわたしを笑顔で見ていた。
「降参」
 とわたしは花束を抱えたまま話しかける。濃厚な匂いが部屋中に広まっていた。
「今日から、オレがオマエの旦那になる記念日。それで、オマエがオレの嫁になる記念日」
 大きすぎる花束を受け取って、今度はリングを差し出した。それからわたしの左手をとり、するりと薬指に嵌め込んだ。
 わたしは呆気にとられる。プロポーズって、もっと厳粛なものだと思っていた。
 なにも言えないでいると、キバナは
「こういうのがオレたちらしいだろ?」
 と言った。
 さっきまでの切なさはどこへやら、わたしは胸いっぱいに幸せの匂いを吸い込んで彼の胸に飛び込む。はいもいいえもない。キバナが決めたことなんだから文句などない。
 人懐っこい寂しがりや、わたしが側にいないとダメなひと。一生ぬいぐるみになってあげる。一生ここを幸せな場所にしてあげる。

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