あたしとあの子は姉妹同然に育った。気が強いあたしと、引っ込み思案で自分に自信がないあの子。性格はまるで違うけれどとても仲が良くて、ほとんど毎日一緒にいる。 あたしは彼女がすきだった。彼女はひっそりと咲く、あたしだけが知っている百合の花だった。 「あの、あのね、マリィに相談があるんだけど」 ある日彼女は本当に恥ずかしそうに言った。 「一緒に服買いに行きたいな」 そんなこと、いまさら恥ずかしがることでもないのに。不思議がっていると、彼女は口元を押さえて真っ赤になりながら「す、すきなひとと映画観に行くことになって」と言った。 あたしは一瞬、固まる。 そっか、そうだよね、マリィたちお年頃だもんね。 そういうことがあっても不思議じゃないよね。 「だから、おしゃれなマリィに選んでもらいたくて、ちょっとでも可愛くなりたいから」 「そっか、いまから行く?」 「うん! ありがとう!」 この子の可愛いところは頭の先から爪先まで、しっかり分かっている。もう十年以上も一緒にいるんだから当たり前だ。 「すきなひとって、あたしも知っとるひと?」 「しらないと思う……今度、紹介するね」 いいよ、そんなの。なんてそっけない返事ができるわけもなく、あたしは曖昧に頷いた。 「変じゃないかな? かわいい? 似合ってる?」 あたしが選んだ白いワンピースを着て、試着室でくるくる回るあの子。それはまるで、本当に百合が咲いているように可憐で、とっても儚く見えた。 「可愛いよ、世界一」 頭のさきから爪先まで、あたしのものだと思っていたのに、案外早くこんなことになるんだね。 それからあの子のデートは恙無く進み、着々と事が進んで、やがてカフェで「結婚するんだ」と告白された。あっという間だった。 はにかむ彼女はあの日買ったワンピースを着ている。 意に反して、涙がぼろぼろと溢れ出てきた。おめでとう、といえなくて、あたしは席を立つ。 「世界一可愛いよ」 と辛うじて伝えて、涙を袖でごしごし拭いながら逃げ出した。最初で最後の大失恋だった。 - - - - - - |