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アシンメトリ



 キバナに服を全て剥ぎ取られた次の瞬間、サイレントモードにしていなかったわたしのスマホが大音量で着信を知らせた。ディスプレイには「ダンデさん」の文字。彼の直属の部下であるわたしには何より重要な電話だった。
 鬱陶しく抱きしめてくるキバナを払い除けて電話に出る。
「もしもし、どうかされましたか?」
〈休みの日にすまない、実は今度のイベントのことで相談があって〉
 生真面目な声が電波に乗って伝わってくる。わたしが裸なのは彼の知るところではないけれどなんとなく恥ずかしくなって散らばっていた服で前を隠す。人差し指を唇に当ててしーっとキバナに言う。子供に教えるみたいに。キバナはつまらなそうな顔をした。そりゃそうだろう。いまから始めるっていうときに仕事の電話だ。萎えても仕方ない。
 わたしは鞄からスケジュール帳を取り出してダンデとの会話を続ける。ダンデさん、今日はオフなのにずっと仕事のことを考えていたみたいだ。
〈君の意見を聞きたいんだが〉
「そーうですねぇ……」
 わたしがペンを噛んで考え込んでいると、後ろからキバナが覆いかぶさってきた。ダンデさんに聞こえないように、ちょっと、と文句を言う。キバナはわたしの手からスマホを取り上げて、スピーカーホンのボタンを押してそれをベッドに放り投げてしまった。わたしは慌ててそれを追う。
「すみません、スマホ落としちゃいました」
 なんとなく言い訳をしながらスマホを拾おうとすると、その手をキバナに掬い取られた。あ、と思うと彼はそのままわたしの指先を咥えてしゃぶり始める。わざと大きな音を立てて。垂れ目がいやらしく輝いていた。
〈大丈夫かい?〉
「え、ええ、大丈夫です」
〈それで、どう思う?〉
 キバナはまだ指を舐めている。どうしよう、音が聞こえていたら。
 幸いにもダンデさんはなにも不審がらず話を続けてくれた。イベントの日取り、人員、いま考えなくてもいい内容だったが、いつもはやる気のないダンデさんが考えてくれているのだから話してしまいたい。
 なんとか平生を装って話していると、キバナはまたつまらなそうな顔をした。そしてわたしをベッドに押し倒して脚を掴む。わたしはされるがまま。仰向けでダンデさんと話している。内容が筒抜けだが、別にキバナに聞かれたところで困るものでもない。
「わたしは、いままでどおり……いっ、あ!」
 急な快感に変な声が出た。キバナを見るとわたしの脚の間に顔を埋めて、今度はそこを舐めしゃぶっていた。嘘でしょ、信じられない。さすがに声が抑えられそうにないのでキバナの頭を叩いてやめさせようとする。が、逆に腕を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。
〈どうした?〉
 ダンデさんの心配するような声。
「あ、あの、犬が、ちょっと」
 キバナの長い舌がなかに入り込んでそこらじゅうを蹂躙する。びりびりと痺れる快感にさらに声が出る。「あっ、あ、んっ」
「ダンデに丸聞こえだぜ」
 小声で、犬がいう。
「いっ、犬がじゃれてくるので、」
〈犬を飼っているのかい? いいね、犬は賢いし君に似合っているよ〉
 優しいダンデさんの言葉も、いまは刺激になってしまう。
 バカ犬は顔を上げてにたりと笑った。
〈いま話して大丈夫かな〉
「だいじょ、ぶ、です」
〈それならよかった。適度に犬も構ってあげなさい〉
「はい、っ」
 今度は舌でくすぐられながらいちばん敏感なところを指で弄られる。わたしの弱い部分をきちんと知っている犬だ。口元をおさえたいのに、両手がつかまれているのでなにもできない。「んっ、あ、っ」ダンデさんは構わず仕事の話を続ける。わたしの細い喘ぎ声を相槌と捉えたのかもしれない。
「つまんねーな」
 長い指が容赦なく侵入してきてわたしは仰反る。
「も、だめ、はなして」
 小声で反論しても聞きやしない。わたしはじたばたする。
「バレるまでヤろうぜ?」
「ばかっ」
 キバナは笑顔のまま、指を引き抜いて自分の性器ををわたしのそこに擦り付ける。「だ、め」聞きやしない。
 ずぶずぶと大きなものがわたしを犯す。
「あっ、ん、あ、ダンデ、さ、ん!」
〈ん? どうした?〉
「い、犬がちょっとあばれて、んっ、ど、しようもないので、あっ、あとでかけ直します、」
 辛うじてそう叫ぶ。
〈そうか、わかったよ。気をつけて〉
 優しい声。わたしは安堵する。
「も、ばかぁ」
「えー、切ったのかよ、楽しかったのに」
「あんっ、あ、ああっ」
 容赦なく始まる激しいピストンに、もう嬌声しかでない。わたしは我慢していた分も放出するみたいに大きい声を出した。キバナとのセックスはいままでの何よりも気持ちいい。
「んっ、ん、んんっ、」
 身を震わせて気を遣ると殆ど同時にキバナも射精した。
「ばか」
 わたしはまた文句をいってさっさと服を着ようとする。その前にスマホを拾い上げると〈通話中〉の文字。
 さっと血の気が引いた。
 震える指で終了ボタンを押して、早鐘を打つ心臓を押さえ込むように蹲る。
 聞かれた、全部。
「どした?」
 と後ろから声をかけてきた元凶なんて無視。バカ犬は察したのかなんなのか「ダンデもたいへんだなー」と能天気に呟いた。
 どうしよう。もう身体の火照りなんて冷めた。明日、どんな顔をして仕事に行けばいいんだろう。なにもなかったふりをしようか。そうだそれがいい。犬のしつけができないわたしが悪いんだ。
 バカ犬の頭をまた叩いて「ばか」ともう一度いった。

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