「迷子です」 悪びれない表情で彼女は言った。ぼくは驚いて彼女の丸い目をまじまじと見返す。広いワイルドエリアといえど、スマホがあれば迷うことはないだろう。 「なくしました」 ぼくの質問の前に彼女はけろりと言った。 「へへ」 少しだけ気まずそうに、ぼくが差し出す手に捕まり立ち上がる。こけたのか膝がボロボロになっていた。成人女性とは思えない様子にぼくは呆れてものも言えない。 「カブさんが来てくれてよかった」 燃えるように赤い服が草原に映えていた。ぼくの好きな色だ。だから見つけられた。 「もう少しで泣くところでした」 「やめなさい」 「だって」 よく見たら服に穴も開いている。どうやったらこんなにひどい状態になれるんだ。 「いや、説明しなくてもいい」 君の代わりに頭を抱える。 どうせポケモンも携えず「散歩」とか言ってふらふら来たんだ。そして野生に襲われてなんとか逃げ出したと思ったらスマホを落としたのに気づいた、とかそんなところだ。 「死ななくてよかったね」 年甲斐もない、と説教するのは簡単だがどうせ聞きやしないのでそんなことはしない。 「カブさんが来てくれると信じてました」 「よく言うよ」 ニコニコしているのを見ると文句を言う気も失せるというものだ。 「だってカブさんのいつものルートだもん」 「気まぐれで今日ここを通らなかったらどうするつもりだったんだい」 「そのときは……そのときですね」 へへ、とまた笑う。 「あ、ほら、夕焼け」 君は赤い袖を振り、地平線を指差した。 果てない赤を見ながら君はぼくにもたれかかる。 「カブさんを信じてよかった」 よく言うよ。ぼくは黙って君の肩を抱いた。 - - - - - - |