×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




Mary Magdalene



 あの子は鈴のついたチョーカーをいつも着けている。「お揃いだね」と笑う細い眼はほんとうに猫みたいで、あたしはいつもドキドキする。アニキとお揃いの、素っ気ないチョーカーとは違って、あの子のそれはとてもおしゃれに見えた。彼女が動くたびに鈴はりんりんと鳴いて、まるで「あたしを見つけて」というみたい。それなのに目立つことは嫌いで、誰かに褒められたりけなされたり、言及されることを嫌がる。バトルも地味で「あたしなんて見ないで」といっているみたい。どっちが本音なのか分からないところが、ミステリアスでとてもすきだと思う。思うし、いつもそういっている。あたしはこの子がとてもすき。
「あたしもすき」
 内緒話するように彼女もいう。実際、あたしたちの恋心は誰にも内緒だった。同い年の友達はみんな異性の話をしているし、アニキとはこんな話しない。あたしたちはさも「いい友達です」という顔をして、いつもこっそり手を繋いだりキスしたりする。それ以上のことももしかしたらするのかもしれない。いまはまだわからないけど。
「彼氏でもできましたか」 ある日、アニキにそう訊かれた。「最近、スマホ見てる時間が増えたと思ったので」さほど興味がなさそうに訊くものだから、あたしは答えに困る。あたしが女の子をすきなことはアニキは知らないし、きっとこれからも知らない。だから「友達ができた」という。本当のことだし、嘘はついていない。アニキは「そうですか」とやっぱり興味がなさそうに応えた。「友達が多いのはいいことです」というアニキの友達のことも、恋人のことも、あたしは知らない。これからも知らないんだと思う。
「言いたくないことは言わなくていいんだよ」
 アニキに問われたことを話すと、彼女は笑った。首を横に振るたびに鈴がりんりん鳴る。まったく同感で、あたしは「そうよね」と笑い返した。
 人間って、そんなものだ。ひとには見せない一面を持っている。あたしの場合はこの子のことがそれで、アニキの場合は人間関係がそれ。この子の場合は、きっとあたしのことがその一面。あたしたちはその点もお揃いだった。
 お揃いばかりのあたしたちだけど、もちろん知らないことも多い。彼女はあたしのどこがすきなのか、とか、いつまでこの関係は秘密なのか、とか。でも知らなくたって生きていける。あたしたちはいまが楽しければそれでいいと思っていた。「すきだよ」 と囁けば、「すきだよ」と返ってくる、ただそれだけの関係でも、あたしはいまのままがすきだった。知ることは知られることだ。誰も知らないこの子を知っているのは、あたしだけだから。秘密のままのふたりでいいと思っている。
 こっそり待ち合わせた駅の裏。今日もあの子はりんりん鳴きながらやってくる。それは恰もあたしにだけ「見つけて」といっているみたい。誰にも知られたくないけど、あたしにだけは見つけられたい。そんなあの子がとってもすきで、あたしは今日も新鮮にドキドキする。

- - - - - -