×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




サイケデリックオンシュガー


 ライブ以外ろくに運動しないおれの身体は枯れ木みたいに細い。いろんな女子に羨ましがられ、男子にはもっと鍛えろといわれる。コンプレックスでもないが得することもない。ふだんマイクとマイクスタンドくらいしか強く握らない掌は、いま初めてひとの首に手をかけている。指を広げて、包み込むように柔らかい喉を押さえる。親指が喉仏のところで重なって、少し力を入れると呼応するようにそれは動いた。こくん、と唾を飲む動き。おれも彼女も、僅かに緊張していた。「ね、首絞めてみる?」言い出したのは彼女からだ。たぶん。もしかしたらおれの妄想で、そういわれたと信じたいだけなのかもしれない。とにかく、おれの手は彼女に誘われていまこうして首に手をかけていた。白い喉は生温くて、ああこいつは生きているんだなと当たり前のことを知らしめる。ぐ、とまた親指に力を入れた。きっとこのまま力を強くしたらぐしゃりと潰れて死んでしまうんでしょう。儚いものですね、お前は。「苦しいですか」今更そんなことを訊いてみる。彼女は頬を歪ませた。それが否定なのか肯定なのか分からなくて、でも彼女のなかは悦ぶように締め付けてきて、そういえばセックスをしていたのだと我に返る。彼女は上目遣いでおれを見つめていた。苦痛に悶える表情と悦楽に溺れる表情は同じという。目は虚ろなのに、笑っているような口許。確かにそれはどちらなのか判断できない、エロティックな表情だった。「んっ、う」首筋を包む指先に力を込めると、空気のような声が洩れた。力を強くするたびになかが蠢いて、おれは声を出しそうになる。過ぎる快楽が、指先を更に我儘にした。もっと、もっと彼女を感じたい。ふだん握りしめているものよりずっと柔らかい、彼女の首。加減を間違えればすぐに殺してしまうだろう。征服欲なのか加害欲なのか、ぞくぞくした。「苦しいですか」おれは同じことを訊く。お前は咳き込むことで苦しさを伝える。あまり長く続けると本当に窒息死させそうなので、一度手を離した。「ネ、ズ」「苦しいかって訊いてるんですよ」「げほっ、ごめん、なさい」会話にならない会話がやけに楽しい。「おかしくなる」涙目でおれを見るなんて、お前は本当に分かっていますね。そうやって煽って。再び首を絞めながら、だらしなく涎を垂らす唇にしゃぶりついた。彼女は鼻で必死に息をして、時折切なそうに喘ぎ声を洩らす。可愛くて、可哀想で、たまらなくなる。おれのこの頼りない手と指で、お前をどうとでもできるんです。殺せるし、気持ちよくできるし、なんでもできる。おれのしたで身体を捩らせる姿は、本当に「おかしく」なったみたいだった。いやいやをする駄々っ子のようで、やっぱり可愛い。おれもおかしくなってしまったのか、そんな彼女のせいで腰の動きが止まらない。頭がくらくらする。気を遣りそうになると自然と首を絞める手に力が入って、お前はますます顔を歪ませる。だから、もう、おれは。「っ、は」一瞬、脳内に閃光が光り、呆気なく射精してしまった。どくりと精液が出る感覚に身を震わせる。びくびくと彼女のなかも反応して、絶頂に達したことが伝わった。「ねえ、ネズ、」その上目遣いは首を絞められて気を遣ったことを恥じらっているのか、それとももっと欲しがっているのか、この癖になりそうな危険な遊戯を楽しんでいるのか、それとも、他の感情なのか。おれはお前をどうとでもできる。なにをしてほしいのか言ってください。そうしてあげるから。おれは汗を拭いながら、たぶんニヤリと笑っていた。

- - - - - -