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metamorphose temps de fille



 全く少女というものは儚いものだ。
 砂糖菓子のように甘く、気がつくとほろりと消えてしまう。
 その僅かな甘さを可愛さを儚さを閉じ込めた生き物はたいてい数年で姿を変えてしまう。高いヒールに赤いルージュ、釣り上げたアイラインに鋭い眼差し。
 全く、わたしは少女というものを愛している。
 目の前にいるマリィもわたしの愛する少女のひとりだ。兄に似ているのか少しつり目で、でも幼さを残した眼差し、柔らかい肢体、何事にも物怖じしない勇敢さ、もしくは無鉄砲さ。少女が必要なものを全て兼ね揃えていた。
「今日こそアンタに勝つけんね」
 キッとわたしを睨む瞳の煌めきときたら! この煌めきを永遠に閉じ込めておくにはどうしたらいいのだろう。
 わたしはそんな浅ましいことを考えていない風な装いで「いい勝負になるといいね」なんて、気風のいいお姉さんのふりをする。
 鋲のついたジャケット、兄とお揃いだという鈍く光るチョーカー、胸元が少し広めのワンピース、それから先が尖ったブーツ。可愛い少女にこんな装いは無粋だ。
「余計なこと考えとらんで、勝負して」
「ん、ごめんね」
 病的なほど白い指先が挑むようにわたしに向けられる。
 その白い指先はなにでできているの? やっぱり砂糖菓子?
 バトルなんて微塵も興味ない。わたしは、わたしに執着するいたいけな少女と対峙できればそれでいいのだ。結果的にいつも勝ってしまうのだけど、そんなことはどうでもいい。悔しがるマリィの表情はやっぱり少女にしか出せないもので、それが見たくていつも遊んであげている。もちろん、今回もわたしが勝った。
 マリィはとてもとても悔しそうに、涙を堪えて空を仰いだ。
 きらり、溢れたダイヤの一雫が頬を伝う。
 触れたら壊れてしまいそうな細い身体。震える指先がダイヤを拭いとった。
 わたしは反射的に彼女の腕を掴む。涙の一雫を舐めとると、マリィはびくりと身体を震わせた。涙は予想どおり甘い味がした。こんなことをして、きっと嫌われるだろう。でもわたしは少女から流れ出るものはひとつも無駄にしたくないのだ。
「な、なに」
 それは恐怖なのか驚きなのか。マリィは目を大きく見開いた。
 わたしはマリィという少女の全てを愛していた。少女だからではない、マリィだからでもいない、少女のマリィをこのうえなく愛していた。
 いつか、わたしも少女だった頃があった。砂糖菓子で、綿飴だった。その頃の記憶は、花園の奥にでも追いやってしまったようでぼんやりとしている。
 だからいま目の前にいるキャンディを無駄にしたくないのだ。
「マリィ、きっといまがいちばん楽しいよ」
 わたしは何事もなかったかのように話しかける。
「いまを大事にしてね」
 それを宣戦布告と受け取ったのか、少女は「……次こそ、勝つけんね」と甘く囁いた。
 少女のいちばん大切な時間を捧げてもらえるわたしはなんて果報者だろう。願わくば、マリィが砂糖細工であるうちに、食べ尽くしてあげたい。
「愛してるよ、マリィ」
 立ち去る背中に、聞こえないように語りかけた。

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