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manifesteange



 初めて会った日からそのひとを忘れたことは一度もない。だってあんなにキラキラと輝いていて、まるで、天使かなにかだと思った。
「ジムリーダーマリィの初敗北、ゲットしちゃった」
 そのひとはニンマリ笑って膝をつくあたしに手を差し伸べた。
 膝をついたのは敗北感からじゃない。あなたが、とても眩しかったから。
「……ありがとう」
 ドキドキを気取られないようになるたけ感情を押さえ込んでその手を取る。そのひとはその様子を悔しがっているのだと捉えたのか、あたしの腕を引っ張ってそのままハグをくれた。
「とってもたのしかった。ありがとう」
「あ……あたしも」
 ドキドキが止まらない。一目惚れなんて信じていなかったけれど、これは確かに抗えない事実だった。
 薄暗がりのネオン街に、天使が現れたんだ。
「また遊びに来るよ」
 そのひとはにこやかにそう言って、最後に握手をした。温かい手だった。
 それから、そのひとを忘れたことは一度もない。だってあんなに煌く笑顔をしていたんだもの。
 また来てくれるといいな。うらぶれたネオン街、あたしの願いは夜空に消えていく。流れ星が見えたので、反射的に彼女の名前を三度呟いた。こんななんでもない日に、来てくれるはずもないのに。
 ところが願いは案外簡単に叶えられた。「近くまで来たからさ」そのひとは真っ白なワンピースを海風にはためかせて笑った。
「マリィちゃん会いたくなって」
「嬉しいけど、なんもおもてなしはできんよ」
「いいんだよ、マリィちゃんに会いたかったの。それだけでいいの」
 嬉しい言葉にくらくらする。そのひとはお土産といって白い小箱を差し出した。開けると人気店のマカロンがふたりでは食べ切れないほどの量入っている。
「マリィちゃんに食べさせたいの考えてたら、全部買っちゃった」
 そしてふたりでくすくす笑う。
 天使は軽やかな足取りで寂れた街を歩く。
 あたしの家までの数分間が永遠になればいいのに。できるだけゆっくり歩きながら、あたしはそんなことを祈ってみる。流れ星も出ていない昼間じゃ、叶えられない願いだけど。
 彼女は背中が大きく開いたワンピースを着ている。肩甲骨が浮いていて、まるで本当の天使の羽。
 家に着くとアニキはいなかった。「ふたりで全部食べちゃおっか」天使は共犯者の顔でいった。あのときあたしを負かしたのが嘘みたいに、無邪気なただの女の子だった。
 その笑顔にときめいているのは、どうしても嘘じゃない。
 あたしは、予測できない彼女の動きにすっかり囚われていた。
「おいしいでしょ」
 天使のマカロンは甘く甘く、恋よりも甘い味がした。
 あたしは、天使の横顔を見つめている。どうしてこんなに近くにいてくれるんだろう。
「わたし、マリィちゃんが好きだよ」
 お砂糖がついた指を舐めながら言うその言葉はいったいどちらの意味なの。
 天使は眩しい笑顔であたしを見た。あたしは、この恋心を余さず飲み込むように、咀嚼もそこそこにマカロンを嚥下する。単純な、甘い後味だけが残った。
「あたしも、好き」
 こんな恋も簡単に飲み込めたらいいのに。
 天使は変わらず煌く笑顔であたしを見ている。その眼差しは、どんな愛なのですか?

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