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業火にカナリヤ



 どうして君はあんなつまらない男と付き合っているんだ?
 どうして君はオレのものにならないんだ?
 何百回も繰り返した「どうして」に答えはない。君はそんなことも知らずにオレのために走り回っている。チャンピオンがただのリーグスタッフに恋するわけない、誰もがそう思っている。君も含めたオレ以外。「ダンデさんの恋人はきっと幸せですね」なんて、可愛い唇から聞きたくなかった。「自慢の恋人さんですもん」架空の誰かの話なんて、やめてくれ。「わたしの彼氏もダンデさんくらい立派ならいいのに」やめてくれ、どうか。
 どうして君はそんなに無邪気なんだ?
 どうして君はオレに微笑みかけるんだ?
 オレのこと、どう思ってるんだ?
 答えは「オレがダンデだから」に相違ない。皆に信頼されているチャンピオン、ヒーロー、ダンデ。そこに嘘はない。「恋人なんていないよ」オレはできるだけ穏やかに答えた。君が恋人ならよかったのにな、とは言えない。もう誰かのものである君に恋したって、君を困らせるだけだから。
 燃えるように熱いこの気持ちはどこにもぶつけようがない。バトルでもトレーニングでも、この鬱屈した炎は消せなかった。常に頭の片隅に君がいて、微笑みかけるんだ。やめてくれ、どうか、微笑まないで。これ以上君を好きになってしまいたくない。
 君は片付けをしながらなにか知らない曲を口ずさむ。それが可愛くてついふ、と笑ってしまった。すると君は「あ、ごめんなさい」と慌てて舌を出す。こんな些細なやり取りがとても幸せで「いいんだ、続けてくれ」と促した。「知らない曲を聴くのは楽しい」とか、適当な理由をつけて。
 少し不思議そうな顔をしながら君は歌を続ける。それは穏やかで伸びやかで、疲れ切ったオレの身体はスポンジのように吸収していった。真綿に包まれるような心地よさ。君は確かに癒しだった。上手い歌ではないかもしれないが、オレにとっては最上級の子守唄のようだった。
 どうして君はそんなに優しいんだ?
 どうして君は、
「ダンデさん、ここで寝ないでくださいよ」
 肩を揺り動かされて、居眠りしかけていたことに気づく。君は笑った。
 どうして君はそんなに優しく微笑むんだ?
 その笑顔に瞬時に脳内の炎が燃えたぎって、オレの手は君の手を掴んだ。強く強く掴んだ。君が怯えるのが分かる。
 どうしてオレは、君の恋人じゃないんだ?
 言おうと思えば、いまここでそう言える。君を困らせたって構わない。だって君はオレをこんなにも困らせているのだから。
「どうして、」
 君は、オレの、
「……ダンデさん?」
 恋人じゃ、
「……あ、あぁ、寝ぼけていたみたいだ」
 恋人じゃ、ないんだ。
 子供みたいですね、とやっぱり君は微笑んだ。「また歌ってくれ」気恥ずかしさから、オレは部屋を立ち去る。背後には可愛い歌声がまた始まっていた。また燃え上がる愛情を振り払って、オレはドアを閉める。

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