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太陽と衛星



「結婚するんだ」
 初めて彼女に会わせて、初めて打ち明けた。打ち明けたというより、宣言した。
「オレたち、結婚するんだ」
 弟はウールーの毛繕いをしていたポーズのまま静止して、ぽかんと口を開けている。
 急なことで驚いただろう。なにせ、彼女はお前が十何年も片思いし続けていた相手なのだから。
 幼馴染の優しいお姉さん、そんなところか。オレからしたら可愛い可愛い恋人。弟の淡い恋心を観察するのは、本当に楽しかった。手紙を書いてはくしゃくしゃに丸めて捨て、電話をかけようと迷ってはスマホを投げ出し、結局自分から行動を起こしたことはなにもなかった。相手を明かさない恋愛相談を何度も受けたこともある。相手は自分のことを弟としか思っていない、頭を撫でてくれるけど手を繋げることはない。悪いな、愛する弟よ。オレはそれ以上のことだって何度もしてる。お前の知らない彼女の姿も全部知っている。
「ホップくんには最初に言うか最後に言うか迷ったの」
 もじもじしながら彼女は説明した。
「サプライズさ、弟よ」
 オレは彼女の肩を抱いて笑ってみせる。能天気で快活な兄の演技は楽しい。「驚いただろう? その顔が見たかったんだ」ホップは顔を歪めて、その場から走り去った。ウールーは驚いて彼の後を追う。慰めてもらえ。どうせこれは変えられない事実なのだから。



「どうして」
 やっと、という感じでホップはオレに問いかけた。
「どうしてそんなことするんだよ」
 どん、と机を叩く。カップになみなみ入ったコーヒーが波を立てた。
 そんなこと? 彼女を愛しているんだから、生涯を共にしたいと思うのは当然じゃないか。そんなことを答える。彼女は献身的で勇敢で、時にか弱くて、オレの恋人としても妻としても完璧な存在だ。彼女を愛しているし、彼女もまたオレを愛している。
「子供には分からないか」
 わしわしと頭を撫でてやると、今までにない勢いで跳ね返された。オレを憎む色の瞳だった。
「オレが、ずっとあの人を好きだと知ってて、」
「そうなのか? 初めて知った」
 肩を竦めてみせる。
「白々しいよ!」
 オレの手を振り払ったままの勢いで、テーブルのコーヒーを薙ぎ払う。大量のブラックがフローリングに広がった。「モノに当たるな」オレは兄貴らしい叱り方をする。
「最初に教えるべきだったかな」
「オレが、オレがあの人を好きだと知ってて、ずっと嘲笑ってたのか」
 涙に歪む、大胆で繊細な弟の顔。
 驚いただろう? その顔が見たかったんだ。

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