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永遠の嘘


 重ねた唇が震えても、それはあなたへのときめきじゃない。身体が熱くなるのは脊髄反射。ネズの薄い身体をしっかり覚えたこの身体は今夜逃げ出してしまうの。あなたの寝ているうちに。この交わりはわたしがあなたに吐く最後の嘘。
 細い指を繋いでシーツにふたり沈んでゆく、ネズの髪とわたしの髪が絡まり合う。白と黒。あの日運命だと思った昏い眼が情熱的にわたしを見ている。見つめ合う視線はふたりを繋ぐ赤い糸。わたしはカッターを持ち替えてそれを切ろうとしている。
 荒れるわたしを優しく包んでくれるネズは大切なひとだった。とにかく、彼なしでは生きていられないほどに愛してくれた。わたしが盲なら彼は白杖だ。どんな薬よりもわたしを人間にしてくれた。
「まったく、お前はおれがいないと駄目ですね」
 冗談めかしてそう言うけれど、わたしにはそれが恐ろしかった。
 ネズなしで生きていかざるをえなくなったら、どうすればいいの?
 もしネズが急に心変わりしてわたしを捨てたらどうなるの?
 それならいっそわたしから離れてしまおう、この暖かさがなくならないうちに。
 そんな風に考えていること、ネズは決して知らない。今日も情熱的にわたしを抱いて、眠りにつくまで穏やかに見守ってくれた。ごめんなさい、貰った睡眠薬は口に入れたあとこっそり吐き出しました。今日はあなたが寝付くのを見守る番だから。
 柔らかな寝息が聞こえる頃、わたしはそろりとベッドから抜け出す。抱きしめられているのを解くのは少し苦労した。ネズの身体はわたしよりも細くて、小枝のようにわたしに絡まっていた。
「おやすみ、さよなら」
 聞こえない声でわたしは告げる。音を立てずに服を着て必要最低限のものだけ持ち静かにドアを開ける。ネズから貰ったものはすべて置いていこう。愛も、なにもかも。痩せた指にあったラピスラズリが滑り落ちて床に落ちた。優しく包まれた今夜の温もりが指先から消えていく。
 ネズが寝返りを打った。目蓋がひくりと動いて、
「さよなら、じゃあね」
 わたしはもう一度言って、微笑んでみた。きっと起きていないから見えていないけれど。嘘でも「またね」と言えないわたしを、手紙のひとつも残さず去るわたしを、きっと許してね。わたしもあなたを許すから。わたしをこんなに駄目にしてしまったあなたを。永遠の愛なんてないんだよ、永遠に。

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